おれの気持

おれはどうしてこんなことになっちまったんだろうか。仲間たちはもう、冬がくる前に天国へと旅立ったというのに。春になると、メスが生みつけた卵から新しい仲間がいっぱい孵って、元気に動き回ることになっているはずで、おれはもう必要ないのにな。

おれ、仲間が誰もいなくなった庭でうろうろしていたら、どんどん寒くなってきて、それで、ここんちの日の当たる玄関にいることにしていたら、そこも冷えてきて、それでつい、玄関のドアがあいた隙に中へ入ったんだよ。そうしたら、たちまち、ここのおばさんにつまみだされて、だから、しかたなく花壇の葉っぱの陰に。

そのうち夜になると、寒さで体が動かなくなってきて、ああ、これでおれもついに仲間たちのところに行くんだろうなあと思ったんだ。

なのに、おれのことをみょうに気にしていたおじさんが、おれの様子をみにきて掌に乗せ、そのまま家の中に入り、段ボールにおれを入れたんだ。そこはとても暖かくってさ、おれはつい、うとうと・・・。眼がさめて、ここはどこだ?

おじさんは水をくれたり、ハムやささみのかけらをくれたりし、ずっと餌にありつけなかったおれは、もう夢中で、両腕のカマで餌を抱えてガシガシと食べたよ。

でも考えてみてくれよ、おじさん。そんなふうにしてくれたって、おれらカマキリはよ、とても冬を越すことなんてできやしないんだ。カマキリ族の長寿記録を伸ばしたところで、なんの得にもならんだろうし。

だけど、つぎに生まれ変わるときは、おれだってカマキリになるって決まってるわけじゃなし、運がよけりゃ人間だったりもするわけで、そうしたら、ここんちのおじさんやおばさんと、人間として会えるかもしんないなあ、なんてね。

こんな形相に生まれついたばかりに、嫌われてばかりのおれにだってよ、それなりの生きざまってものはあるんだが、どうもこれはちがうな。そういえば、ここんちにも少し前までは猫がいたらしいが、もしもまだいたなら、今頃、おれはボロボロにされてただろうから、それは幸運だったなあ。

きょうもすっかり日が暮れちまったなあ。こんなおれにも、明日はあるかな。

 

 

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