ほんとうは、とてもくたびれてるんだよ、ぼくは。

なのに、みんながぼくのことを、チビもずいぶんと人に懐いてきたねえ、などといいながら寄ってきて、撫でようとしたり追いかけたりする。ぼくはさ、こんなところにいるからしかたないかもしれないけど、ほんとはあまり人にかまわれたくないんだよね。

なんか、あいつ、ヤバそう!

ぼくは、ぼくのペースでのんびりと木に登ってあたりを眺めたり、トカゲだのカエルだのさ、ヘビなんかを相手にして遊んでいたいんだ。だけど、ここんところ、どういうわけか、古墳の丘にのぼってくる人がやたらとふえちゃって、それも犬連れの人が多くなって、のんびりなんかしていられなくなっちゃったもんだから、とてもくたびれるんだ。

性格悪そうな犬だな・・・

それでもさ、いつもごはんを持ってきてくれるおばさんとかおじさんにだけは、甘えたいんだけど、そんなことも最近は、なかなかゆっくりとしてられなくなっちゃったよ。人が寄ってくると、おじさんやおばさんはその人たちと喋べってばかりなんだよね。

このあいだもさ、おばさんは、よくくるおばあさんに、自分の生まれたところの話をしだして、ぼくが木に登ろうとしてるってのに、今ごろはリンゴの花がき咲いてるかなあなどと、暢気な話をしてるんだよ。

まる子母さんときたら、すっかりここのアイドルになっちゃって、スマホを向ける人が絶えないものだから、もう、カメラ目線も堂にいっちゃってさあ、おやつなんかももらっちゃって、ますます太る一方だし。母さん、いい加減にしなよ、とぼくは思うんだけど、でも、正直、おいしそうな匂いにつられるのはぼくもおんなじなんだけどね。

それでぼくも最近は太ってきちゃって、木に登るのも、なんだか前よりもきつくなってきちゃったよ。そのうえ、このあいだなんか、雨風がひどい夜のことだけど、ぼくのハウスに変なやつが入っちゃって、まるで自分の家みたいに、のんびりとしてやがるんだよ。

それでぼくらはしかたなく藪の中に潜んで雨をしのいでいたんだけど、雷もひどくなってきて、ぼく、なによりも大きな音が大嫌いで、空がビカビカ光るしさ、もう生きた心地がしなかったよ。朝になって、おじさんがきてくれたときはほっとして、ごはんをもらって、ようやくほっとしたんだ。

ぼくは、臆病じゃないよ、大きな音だの、ドカドカと無遠慮に近づいてくるやつが苦手なんだよ。

どうも、ハウスに入っていた、あの変なやつは、ハクビシンというらしいんだけど、そいつのことをおじさんたちが追い出してくれたんだ。だけど、ぼくのハウスにはそいつのいやな匂いがしっかり残っているから、もうぼくは入らないことにしたんだ。あんなやつの匂いが残っているところに入れるわけがないじゃないか。

それでね、おじさんたちが新しいコンテナハウスをぼくらのために作って,前のハウスとちょっと離れたところに置いてくれたんだよ。そしたら、まる子母さんがでんと陣取っちゃって、なかなかぼくは入れないんだ。その新しいハウスのこと、母さんはすっかり気にいっちゃったようで、ぼくが入ろうとすると猫パンチをしてくるし。おまえもそろそろあたしにくっついてばかりいないで、独り立ちしなよ、だって。

母さんは、自分の都合のいいときだけ、そう言うんだよ。

だけど、おじさんたちは、二匹が一緒に入るためのハウスだって言ってたんだぜ。母さんがハウスの中で寝てるときだって、ぼくはろくに寝ないで、やつがこないように、見張りをしてるってのに、母さんはハウスの中で寝てる。

そんなこんなですっかりくたびれちまって、気がつくと、つい、石の上でウトウトしちゃったりしてる。以前のぼくには考えられないことなんだけど。雨で眠れなかったから、お日様の光が気持ちよくてね。なのに、誰かが、あらっ、こんなところに猫が、といいながら近づいてまたスマホ向けるから、びっくりして眼がさめるんだ。

あ~、ゲンジツって、厳しいもんなんだね。

この子は、なに寝言を言ってんだか。

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