いいドクター、いやなドクター

60代後半くらいの、アヤメが咲いているこのころの季節、左の小鼻の脇にしこりがあることに気づいた。
化粧をするときに、なんだか左の小鼻の脇が固いなと思った。

とりあえず近くの耳鼻科に行くと、なにか膿が溜まっているようだと言われて、それを鼻の穴から注射器で吸い取るからと言われ、従った。
麻酔はしたようだったが、気が遠くなるような痛さだった。

結局その処置の三度目に気が遠くなり、意識を失った。
気がついたらベッドに寝かされていて、血圧が異常に低かった。

それでそのドクターには懲りて、ほかの病院に行き、近隣では一番大きな病院を紹介してもらった。
今度はそこで、耳を疑うようなことを言われた。

「あなたの年齢ですと、平均寿命まであと約17年。悪性ではないようなので、このまま手術しないで我慢するという方法もありますよ」

「でも先生、大きくなってきて、鼻の横が膨らんできてるんですけど」
固いしこりは少しずつ大きくなり、小鼻の横が膨らんで、ほうれい線が消えていた。

「たしかに。でももう、顔のことを気にする年齢ではないでしょう? 手術しても再発の確率は高いし、痺れなどの後遺症も残りますから」

自分の命を平均寿命で切られ、もう婆さんなんだから顔など関係ないと言われたようで、頭がぼうっとしてしまった。

それでもなんとか気を取り直して、私は手術を選び、予約も入れたのだったが・・・。

けれど、手術の日が近づくにつれて、あのドクターに手術を受けるのはいやだという思いが募ってくる。
だがもう、その日まで一週間あまり。
はたしてキャンセルできるのか。

しかし、誰のものでもない自分の体や顔を、信頼できない人に委ねることはどうしてもできない。
それで勇気を出して電話をし、ネットで調べた県立の病院に回してもらうことにした。

だから手術は遅れたが、今度のドクターは説明も診察も丁寧だった。
それで安心して手術を受けることができ、後遺症もほとんど残らなかった。

さらにそのドクターは、俳優の鈴木亮平を思わせる風貌で、診察を受けるたびにドキドキした。
なんせ、診察する部位が鼻だから、顔と顔の距離が近くなる。
それで、ああ、こんな感情、ひさしぶりだなと思いながら、息を止めそうになる。


今のところ、再発もない。
摘出した膿胞は予想よりも大きく、CTには映っていなかったが、裏側に小さな膿胞がぶどうのように連なっていた。

悪性でなくても放っておくとさらに大きくなって、眼や脳を圧迫し、ものが見えにくくなったり、最悪の場合は死にいたることもあるという。

あのとき、病院に気をつかって、あのドクターに手術を受けていたらと思うと怖くなる。

判断に迷うときは、相手が誰であれ、まずは自分の気持なんです。
それに、BABAさんだって、それなりに小綺麗にしていたいんですよ、ドクター!

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