夕方の餌やりがなくなって、暮らしのサイクルが変わった。
それで、とにかく体を動かすことにしている。
まずは、ミーナのせいでぼろぼろになっていたふすまの張り替えをした。
やんちゃが過ぎるミーナも、このごろはだいぶおちついてきて、ところかまわずバリバリすることはなくなったからだ。
古い家の破れかけていたふすまは、いかにもすさんだ暮しを思わせた。
というわけで、まずは眼に入るものから修繕することに。
ふすまの張り替えが無事に終わったので、今度は草ぼうぼうの庭の手入れだ。
草を取り、木や野菜の伸び放題だった枝を剪定していると、お日様の光がどの枝にも届くようになって、どの葉も嬉しそうに風に揺れている。
ついこのあいだまで華やかに咲いていた鉢植えの蘭は、精一杯咲いたせいで、すっかりくたびれ果てていた。
ああ、おまえもくたびれたねえ。
声をかけて肥料をやり、水をたっぷりやると、少し生き生きしてきた。
なんだかお産を終えた母親のようだと、ふいに思った。
そんなふうに、さまざまな思いを土に返したり想像したりしながらの作業は楽しい。
それでもちょいと疲れて休憩していると、どこからか蝶が飛んできて、花殻を取っていない褪せた花に止まった。
その姿がとても美しく、まるでしあわせを運んできてきくれたように思えた。
いつもせかせかしていた暮しのペースがゆるりとしてくると、ほんの少しのことが、とても素敵にみえてくる。
いつのまにか、嫌なこともたいして気にならなくなって、いいことがすぐそばまでやってきているような気配を感じるようになって、万歳だ。
アズキやふじ子、他の猫たちもみんな元気にしているかしら。
気になって、先日、覗きに行くと、毎日通っていたときと違って、少し距離ができていた。
さびしいが、少し安心した。
私でなくても、餌をやってくれる人にうんと甘えてほしいから。
私はもう十分にあなたたちからしあわせをもらったんだからね。
そんなことを考えながら、薄曇りの夜のベランダに出てみると、空にはぼんやりとしたお月さま。
お月さまはいつも優しいね。
この月の光を、それぞれの土地で、たくさんの人々が一緒に眺めているんだなあと考えると、一人ではないという思いが沸いてくる。
願い事をするのは、満月か新月のときがいいらしい。
これまでは猫たちの無事をお願いすることが多かったけれど、今晩は、自分のことをお願いしてみよう。
ベランダでスマホを空に向けていると、さっそくミーナがやってきた。
なになに、なにしてるのよ、というような顔をして。