お兄さんと初めて出会ったのは、もう7~8年も前のこと。
まだ古墳の丘のチビとまる子親子に餌をやるために毎日通っていたころに、よく会った人。
お兄さんにはどことなく、男気というか、気概のようなものがあって、話をしていても面白いので、ついつい長話になったものです。
あるとき、チビとまる子に餌をやっていると、妙なおじさんが絡んできて、野良猫に餌なんかやるな、と怒鳴りながら近寄ってきた。
それで、この二匹はちゃんと去勢と避妊の手術もさせてるし、市役所の許可をもらってるからと説明したのだが、聞く耳を持たないおじさんは、なおもしつこく絡んできた。
猫たちはおじさんの怒鳴り声にどこかへ隠れ、一人残った私も逃げようとするが、追いかけてくる。
襲われるのではないかと恐怖を覚えて小走りで坂道を下っていくと、上ってくる人影がこちらを見ながら急ぎ足で登ってくる。
助けてください。そう声をかけようとすると、薄暗がりに見えたのは、チビとまる子のそばで、ときおり猫の話をしていたお兄さん。
お兄さんは様子を察したのか、追いかけてきたおじさんに一喝。
古墳の丘ではツバメが盛んに飛行していた季節。
その件以来、お兄さんとは会えば挨拶し、軽い会話を交わす猫友となり、チビとまる子のもとへ通わなくなった今もあいかわらず猫友で、今日はアズキがいるところで出会った。
アズキが寝ているので起きるのを待ちながら、近況を訪ねてみると、以前はトレーラーの運転手をしていたお兄さんは、この頃はトレーラーの運転を教える教官になったのだという。
「でもなあ、最近じゃあ、トレーラーもモニターに映る画像を見てさあ、運転するようになったからなあ、簡単になっちまってさあ、さっぱり面白くねえ」
と、お兄さんはトレーラーの進化した仕組みについて話をした。
「昔のは、運転する車と後ろのトレーラーの車輪は連動してなかったが、今は連動するようになってっから、まあずいぶんと簡単さ。簡単だってのはいいことだろうけど、おれにはつまらねえ」
簡単になるのは、つまらないことでもあるという言葉。
一理ある。
お兄さんの名前も住むところも知らないけれど、猫が繋いだ縁はけっこう味わい深い。