花が泣くぜ

ライトアップされた桜

うれしいことがあって、はしゃいでいるうちに、ふっとわれに返る。
すると、眼の前に現実が広がる。

さっきまでの酔いが冷めて、自分が、ちょっと阿保に思えてくる。
そして、さっきまで浮かれていた自分は、現実から目をそらしていただけのことだと気づく。

現実と言うものは恐ろしいもので、だからこそ人は、花をめでたり酒を飲んだりして、いっとき忘れるのでしょう。

昨日は、雨。
咲き揃った桜も雨に打たれて、落ちた花びらが路面に散っていた。
そして、アズキもふじ子も、雨のときにはそうするように、近くのあづま屋で待っていた。

そばにはおじさんが二人。
毎日のように会う方々で、昨日はなにやら、散った赤い椿の花をあづま屋のテーブルの上に置いて、風に飛ばないように工夫しているところで、「なにしてんの?」と訊ねると、「明日の花見会の招待席を作ってるんだ」と言う。

「この花、あそこに散ってた花でしょ。大きな椿の花がいつまでも咲いていたじゃない? 」
私は、前日、コンクリートの路面に、一つ、赤い大きな花が散っていたのを思い出して言った。

まわりの花がみんな散ったというのに、桜が咲く時期になってもまだ落ちず、ひときわ目立っていた花だった。

「そうだよ、あそこから拾ってきたんだよ。こうしときゃあ目印になるってもんだら?」
おじさんの一人は、私が古墳の丘にいたチビとまる子親子の許へと通っていたころからの知り合いだ。

するとすぐに、マスコミで問題になっている県知事の差別発言の話になった。
「あれはよう、まるで殿様気分でよう、民百姓をみおろして物言う時代のまんまだら」

そうだそうだという話になり、そして、一億円とも言われる知事の退職金の話になった。
「我々、民百姓の年寄りはよう、せいぜい花見でもして楽しまなくちゃ、やってらんないよな」

「あんな馬鹿なやつの話には、花も泣くだら?」
おじさん二人は笑いながら、花見の計画を練っているようだ。

一方、そばの桜の下では、雨の中、超ミニ、ロングブーツの女性が、カメラの前でポージング。
ちょっと変わった格好をしているので、訊ねてみると、アニメ「刀剣乱舞」のコスプレだという。

このあづま屋は広いので、いろんな人がきて、いろんなことをする。
午前中は将棋を差す会のたまり場になっているし、古墳の方から坂道を降りてきた人たちが、休憩をする場所でもある。

数日前の雨の日には、若い男女が二人、ぴったりと体を寄せ合っていて、まわりにはきつい香水の匂いが漂い、猫たちも退散したのか、ついに姿を見せなかった。

二人は、他の人の視線にも気づかない様子で、離れない。
ほんのいっときも惜しむような感じで。
まあ、わからないでもないけどね。

それにしても、猫が退散し、花の香りもわからなくなるほどのきつい香水は、いまどき、ちょっとなあ・・・。
精一杯咲いては散っていく桜が泣くぜ。

【猫は少しでも高い所へ乗りたがる】


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