空は晴れているのに、雨が降る。
雨のしずくを照らす光が頭上に輝く。
そんな不思議な天気の日、婆ちゃんは、「あっ、キツネの嫁入りだな」と言ったものだ。
婆ちゃんは、昔の農村にはめずらしい洒落婆ちゃんで、寝物語にはいろんな話を聞かせてくれた。
【和子さんのコレクションより】
だから、いわゆる働かない人。
なんだかんだと理由をこしらえてはめかしこんで町へでかけていた。
昔の農村では、女たちも男以上の働き手で、働かない女はまわりから蔑まれた。
そんな中、婆ちゃんは畑で身を屈めている母を尻目に平気ででかけて行く。
出かけるときは、タンスを開け閉めする音が聞こえてくる。
あっ、婆ちゃんが着物を選んでいる音だ。
金具のついた箪笥をあけたりしめたりし、そのたびにカタンカタンと音が響いてくる。
部屋の屏風に、選んだ着物をかけて、鏡を見る。
ツンと鼻をつく樟脳の香りと、シュッシュッと帯を結ぶ小気味のいい音。
それで私は、一緒に連れて行ってほしいとせがむ。
婆ちゃんは、まわりからはあまりよく思われていないようだったが、私には優しかった。
【ミーナ、としこさんの手作り品と】
町へでかけていくと、きまっているのは、婆ちゃんの親戚がやっている雑貨屋の二階に泊まること。
どこかで祭りがあると、出店をだすので、婆ちゃんと私は出店の店番だ。
生きてるんだか死んでるんだかわからないように静かすぎる自分の家のまわりとちがって、祭りの出店の通りは刺激に満ちたワンダーランド。
ワンダーランドの魅力にとりつかれて、大きくなったら早く家を出て街に出たいと思ったのかもしれない。
晴れているのに雨がちらつく日は、めかしこんだ婆ちゃんの着物の裾からチラチラ覗く白い足首を思いだす。
そうして、ほうずきの実を口に含んで中味を吸いだし、小さな赤い風船を作ってくれたことも。