あずきの望みはなんでしょう。
痛む脚が自由になること。
あずきの悩みはなんでしょう。
固いカリカリたべられない。
あずきの幸せ、なんでしょう。
幸せという言葉の意味がわからない。
辛いことはなんでしょう。
池を渡ってくる風に震えること。
雨に打たれると、体が冷えてきしみます。
うれしいことはなんでしょう。
あったかな手で撫でられること。
つい、ゴロゴロと声が出る。
怖いことって、なんでしょう。
大声あげて、追いかけてくる子供たち。
それから、大きな足音立てて通る男たち。
それから、それから・・・。
怖いことは、いっぱいあるのです。
怖い時には痛む脚をひきずってツツジの植え込みに隠れます。
それから速く速くと崖を登ります。
茂る葉っぱの蔭に隠れるまでは、一心不乱で登ります。
そうしてじっと息をひそめていると眠くなり、大きな葉っぱの蔭で眠ります。
そんな私をカラスが上から見ています。
まるで私が死ぬのを待つように。
夕暮れ色が濃くなって池の向こうに広がると、崖の下から声がする。
名前を呼ばれて、崖を降りて行く。
急げ、急げ、早く行かなくちゃ。
おいしいご飯が食べられない。
いうこときかない左脚、転げそうな私を支えるには頼りない。
まだまだ、カラスの望みを叶えてなんかやるものか。
私を呼ぶ声、聞こえてくるうちは。
あずき、あなたはふっと霞んでみえなくなりそうで、そっと包んでやりたいの。
私は今日もあなたを残して去るけれど、きっと一緒に連れ帰る。