幸せな空気

あまり通ったことのない道を通っていて、ふと、立ち止まることがある。
みるからに、幸せな空気が漂っている家を見たときだ。
幸せな空気って、花がいっぱい咲いているとか、子供たちが庭で遊んでいて楽しそうな声が響いているとか、猫や犬がのんびりと日向ぼっこしているとか、そんな感じ・・・。

ひときわ立派で大きな家は目立つけれど、そういう家ではなく、通る人がふっと幸せな気分になれるような空気を放っている家である。
そんな家の前を通ると、つい、見入ってしまう。
他人の家をじろじろ見ていたら、それは不審者だ。
そうと間違われないように、ゆっくりと歩きながらちらちらと眺めることにする。
今日もそんな家に出逢い、立ち止まった。

車で走っていて目に入ったので、少し行き過ぎて車を停め、その家まで戻った。
よくみると、それは普通の家ではなく、ケーキやお茶を出す店だったので、安心して中に入った。
店の外見もあったかい雰囲気だが、中はさらに柔らかい照明とふんわりと漂う甘い匂いに満たされていて、ふっと気持ちが溶けていくように幸せな気分になった。
時間があったなら、奥のテーブルでコーヒーを頂いたのだが。

入り口の正面のショーケースの中には、真っ赤なバースディケーキがあって、それを注文していたらしい人が、微笑みながら入ってきた。
これから家に帰ると、誕生日のお祝いなんだなあって感じ。
そういえば自分は、ここ何年も日々の暮しに追われていて、そういうことしてなかったなあ・・・。

よし、今度からつつましくてもいいから、そういうことしようっと。
そういう思いにさせられて、小さなケーキを買いました。

どうしたの?
帰って、夫にそう言われたら、たぶん私はこう答えるでしょう。
「うん、私たちの余りの人生に乾杯しましょう」

だって、もう、JIJIとBABAとミーナを楽しむっきゃないんだもの。
この先の人生を考えたら、ぐずぐずとむずかってなんていられないんだもの。
せめて、真っ赤な色のケーキでも食べてさ、この際、糖分だの油分だのカロリーだのということは気にしないでさ。

夕暮れの道の先にお月さまが出ていて、早くお帰り、と言っているようでした。
ミーナもきっと、ご飯を待っていることでしょう。

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