幸せ病

【フレンドリーなアブたち】

幸せってどこからくるの?
8歳になった女の子が、お母さんに尋ねました。

そうねえ、本当は、幸せってどこからもこないのよ。
お母さんは、ちょっと疲れた顔で答えました。

だって、みんな、幸せ、幸せって、口癖のように言うわよね。
女の子は、仕事で疲れたお母さんのまわりをうろうろしながら、めずらしくまとわりつきます。

【公園で出会ったワンコちゃん】

そうねえ、それはね、そんなふうに考えてないと、頑張れないからよ。
お母さんは、あまり食材の入っていない冷蔵庫を見て、ため息をつきながら答えました。

「幸せなんて、あたしたちには縁がない言葉よね・・・」
お母さんは、女の子に聞こえないような低い声でつぶやきました。

そうして、冷蔵庫に残っているわずかな食材で、いったいどんな晩御飯を作ればいいのだろうかと考えます。

【アズたんは、こんなふうに心を許してくれるときもある】

すると、奥の部屋で、女の子の洋服を繕っていたおばあちゃんが、二人に声をかけました。
「ほら、とてもうまくできたからね、直したようには見えないでしょ。上出来、上出来!」

おばあちゃんは顔をくちゃくちゃにして笑いながら、女の子にそのブラウスを着せました。
ブラウスはきれいに洗いあげられ、シミも皺もなくなって、糸が垂れ下がっていた襟のほつれもなくなっていました。

しかも直したところを目立たなくするために、ピンク色の刺繍まで施されているのでした。

【ミーナは暑さを避けて、あちこちで寝る。ベッド脇のこれはお気に入りのサイズ】

「わあ、おばあちゃん、すごくかわいいね。ありがとう!」
女の子の笑顔がはじけ、部屋の中が明るくなりました。

「ねえ、ねえ、今日は、ちょっとお魚の缶詰に、野菜を煮たのを混ぜてみようかな」
お母さんも、ちょっと元気が出てきたようです。

「ほら、ほら、幸せさんがきたでしょ」
おばあちゃんも、笑いながら、今度はお母さんの洋服の手直しにかかりました。

それは、浅葱色の、お母さんのお気に入りのブラウス。
でも、だいぶ前に買ったものなので、丈が短く、デザインも流行遅れです。

おばあちゃんは、自分のブラウスから切り取った布をパッチワークにし、それをお母さんのブラウスにつないで、裾も広げ、チュニックに変身させるつもりです。

これでお母さんも、ちょっとは喜んでくれるかな。
おばあちゃんが、針を片手につぶやきました。
「人間、幸せ病にかかったら、きりがないもんね」

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