あなたから猫を取ったら、

なにも残らないでしょ、とある人が言った。
冗談半分だったが、ぎょっとした。

確かにそうかもしれない。
今の自分から猫との関わりを取ったら、何が残る?

そう自問してみた。
うん、なるほど。

猫との関わりのほかに、今自分がしていることといえば、特にこれといって何もない。
世の中の役に立てていることもなく、誰かのために何かしているわけでもない。

ただ、なんとなく暮し、なんとなく日を送っているだけだ。

たまに思い立って断捨離をして家の中を整理して、そして、自己満足。
空しくなった。

それで、ひさしぶりに図書館へ。
近頃、スマホとパソコンにばかり頼って、本を読む機会もなく、必要も感じなかった。

なのに、急に本が読みたくなって、そうして、前から読みたいと思っていた本を二冊借りて帰ってきた。
自分の本棚には好きな本が並んでいたが、引っ越すたびに処分。

今では、ほんのわずかしか残っていない。
いろいろ見て、結局、昔、ある文学賞の最終候補に自分と一緒に残り、受賞した人の本を手に取った。

ずっと、読む気になれなかった人の本だ。
あれを境に、あちらは、遥か頭上に上って行った。

彼女はつぎつぎと作品を発表し、ある小説は映画にもなった。
日々、猫にかまけている自分とは、えらい違いだ。

でも、今は、その本をあらゆる本の中から選ぶことができ、読んでみて、共感を覚えた。

彼女の作品は、羨望、嫉妬、共感、計算など、人の心をよく捉えているし、時間の経過がわかりやすい。
落選を知った時には、選考委員の好みに合わなかったのだろうと思ったが、それだけじゃなかったのだと納得。

そんなことを考えながら、かたわらで眠る猫を撫でながら、その本を手に取る。
私から猫を取っても、何も残らないわけではないと自分を認めてやりながら。
そう、私にも、秘密の箱がまだいくつもある。

それにしても、猫と本はよくマッチする。
波立っていた気が休まって、本が創りだす、現実とは別の世界に入っていける。

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