カモが二匹で、池に浮かぶブイで遊んでいる。
それを横目で見ながら、アズキは今日は近くにきてくれるかなあと思いながら先を急ぐ。
先週、捕獲で失敗してからというもの、アズキは全く近づいてくれなくなった。
大好きな一本カツオを差し出しても、知らんぷり。
そばに持って行こうとすると茂みに隠れる。
それで茂みのなかに餌皿を入れてやると、警戒の視線を向けながら食べ始める。
確かにゴメンだよね。
怖い思いをさせたし、アズキにしてみたら裏切られたという思いだろうから。
でもさあ、アズキ、あなたみたいにいつまでも警戒し続ける猫もめずらしいよ。
いろんな猫の保護に関わって、一発目でうまくいったことなんてほとんどなかったけれど、2、3日もすれば、そばにまたきてくれたものだったのよ。
なのに、あなたときたら、もう全く手のつけようがないほどの冷たい態度で距離をとる。
今日こそはそばにきてくれるかと期待して家を出て、そうして帰るときはとても落ち込んで帰る。
こんな日は誰もこないだろうと思うようなひどい雨の日に、あなたの好きな餌を持って行っても、愛想のひとつもない。
知らなかったあなたの一面を見た気がして、ひどくさびしい思いを抱えながら帰る日々だ。
行きはよいよい、帰りは怖い。
さらに今日は、あなたの保護に反対をしていた餌やりさんのきつい視線に出会い、背中が寒うなりました。
でもね、あなたの右脚がおかしいのを見て、やっぱりこのまま放っては置けないんだよ。
シロみたいにもしも悪い病気だったらと思うとね。
やっぱり、何年も通ったチビとまる子とのような絆は、まだ全然できていなかったんだね。
あの子たちは、つぎの日にはけろっとした態度で出てきてくれたものなのに。
もしかすると、あなたの捕獲は、シロよりも難しいかもしれないね。
あなたに会った帰り道は、心が通わないもどかしさで、いつもずんと心が重くなる。
だから猫の保護はもう、あなたで最後と決めてるの。