大阪、河内の衝撃

山形県のN市から大阪の河内長野市までの距離、およそ740キロ。
N市での暮しを諦め、仕事があるならどこにでも行くという夫が大阪への引っ越しを決め、猫二匹を連れての、車での大移動が始まった。
車に乗るのが大嫌いな猫たちが騒ぎまくり、てんやわんやの道中だった。

異常なほどに車を嫌う猫たちにとっては、地獄の道中だったろう。
猫たち、きっと、車に乗せられて田圃の淵に捨てられたんだろうな。
だって、保護したときには、生まれてひと月かふた月くらいしかたっていないだろうと思われる子猫が田圃道を二匹で歩いていたんだから。

山形の家の始末を終えて出発したのは、午後の遅い時間。
北陸自動車道から名神高速道へ出て、阪和道へと走り続ける。

夜ということで、まわりはほとんど長距離トラック。
前後左右、すべて、コンテナの壁。受ける風も半端ない。

河内長野にたどりついたのは、翌日の明け方4時ごろ。
ほぼ12時間だ。

そのあいだ、猫たちは騒ぎっぱなしで、ほとんど寝ずに、抗議の声をあげ続けた。
それはそうだよね、飼い主にとっては大変な場所でも、猫にとっては天国のようなところだったんだから。

まだ朝靄の立ち込める時間、ようやく、坂の途中に建つ古い家の前に着いた。
車から降りて、せりあがって行く坂の上をみあげると、ぷっつりと道は消えて空が広がっている。

坂の上から先は、きっとまた下りになっているのだろう。
まるで、そこから先には奈落が待ち構えているように思えてならなかった。

とにかく、家の中に入って猫たちを落ち着かせ、引っ越しの荷を積んだトラックが着くのを待った。
二匹は身を寄せ合って固まったままだったが、しばらくすると、盛んに匂いをかぎながら家中を探索しはじめた。

【まずは、馴染みのキャットタワーをセットしてやると、すぐに上った。】

そして、最大の問題は、近所への初めてのご挨拶。
山形では、そこからがもう、恐怖の事態だったから。

「おめえらをこの町内会の一員として認めるまではゴミも捨てられないし、回覧板も広報誌も回されねえことになってっからよ」
それが挨拶に行ったときの、最初の言葉だったのだ。

それで、河内長野でも、引っ越しの挨拶はおそるおそるだった。
けれど、返ってきた言葉が衝撃だった。

【種が違うのに、寄り添う】

「どんな人がくるんかって楽しみにしとったんよ」
「少し落ち着きはったら、京都行こか。連れてったるでぇ」
京都出身だという隣りの奥さん。
親し気な声をかけてくれる近所の人たちをみては、前の土地とのあまりの違いにびっくり。

引っ越しから数日して、ごみを捨てていると、背後から、[おきばりやす」という声。
振り向くと、品のいい京都弁の年配の女性が笑いかけて通りすぎて行く。
ろくに顔もまだ知らないはずの自分にも、ここでは声をかけてくれるんだなあと、感激。

【仲間たちでレース!】

これは、河内の衝撃だあ、とうれしくて叫びそうになった。
まあ、そんなふうに、なにかにつけておもろい土地で、ふだんの会話もお笑いのようで、たがいにちゃんとオチをつける。
つねに頭を巡らせていないと、話についていけない。

「あのな、お宅の黒い猫な、昨日、うちんとこの仏壇の前でチンまりと座っとったでえ」
と、猫のことも、ユーモアを混じえて指摘してくる。

【ちょっと、春のしつらい】

そして、秋の紅葉の頃には、約束どおり、本当に京都にも連れて行ってくれたのです。
大阪では、場所によっては買い物をするときに値切るのがあたりまえ。
そのやりとりが楽しくて、それまでついぞ知らなかった世界にワクワクしたものです。
人間、捨てたもんじゃないなあと救われたのでした。

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