このところ、アズキに翻弄される日々。
もうちょっとのところで保護に失敗してから、アズキとの距離はなかなか回復しない。
でも、ようやくまた撫でられるようになってきて喜んでいると、つぎの日は見知らぬ人をみるような眼を向けて、距離をとったまま。
バリアが固いなあと思っていると、初対面の女性が近づいても逃げずに、撫でられたあげくに、まるで見せつけるみたいにして、コロンと転がってお腹をみせている。
こちらは、ただ唖然とするばかり。
まっ、猫だもんなあと気を取り直し、ちょっとは触れられるまでに関係も回復したのだからと、公園内の蛍が出る場所へと行ってみた。
ホウホウ、蛍こい。
あっちの水は苦いぞ
こっちの水は甘いぞ
そんな歌など口ずさみながら、暗くなった園内の奥まった場所へと行ってみると、蛍を見る人々が集まっていて、肝心の蛍の姿はさっぱりみえない。
ときおり歓声があがり、その方角を見ると、蛍のかぼそげな光がふわふわと漂うのだが、それはつかのまの幻みたいにすぐに消える。
しかも、蛍の数はほんの数匹。
人間の数のほうがはるかに多かった。
ホウホウ、蛍こい。
あっちの水は苦いぞ。
こっちの水は甘いぞ。
でも、自分のいるこっち側よりもあっち側の水は甘くみえるんだよなあ。
そして、こっちからあっちへ行くと、今度はまた、ちがうあっちの水が甘いようにみえてくるもので。
あっちへ行ったり、こっちへ行ったり。
そうこうするうちに、人生はとめどなく落ち着かなくなるのです。
そして、今夜はは満月が出るはずの夜。
けれど、月は雲に隠れたり、ちらりと出てきたりの繰り返し。
見えそうで見えない月を追いかけて車を走らせているうちに、高台の豪邸が立ち並ぶ住宅街に。
うろうろしたあげく、結局は月も見えずじまい。
ですが、一つだけほっとしたことが。
以前は豪勢で堅牢そうな家々を見ると、憧れの気持が湧いてきたものでしたが、月を探していた今夜は、小さなあったかそうな家がいいなあと心底思ったことです。
あっちの水は苦いぞ。
こっちの水は甘いぞ。
確かにそのとおりだなあと、いつのまにか、そんなふうに感じられるようになっていたんです。