「冬の冷たい雨のときが、公園の猫たちには一番辛い。死んでいるのはたいていそんな朝なんだ」
そんなことを言ったのは、数年前まで餌やりをしてくれていた初老のおじさんだった。
おじさんは同じくらいの年恰好のおばさんと一緒に餌やりをし、ベンチで笑い声を立てながら楽しそうに座っていたので、通りがかりの人たちは、てっきり夫婦だと思っていたようだ。
私も初めはそう思っていたのだが、話をするようになってから、二人が幼馴染で家も近いのだということを知った。
二人が餌を食べている猫の前で笑い声を立てていると、まわりがほんのりと明るい色に包まれているようで、眺めている方も温かい気持になった。
二人は、公園の餌やりさんから無視されたり見逃されていたりした猫たちのフォローを長年続けてきたのだという。
だから、公園の猫たちの黒い歴史も知っていた。
餌に毒を混ぜられて死んだ多数の猫の話や、その頃には捨て猫が100匹以上もいたということで、管理事務所の職員たちが大きな袋に猫たちを乱暴に入れて保健所に運び、処分されていたということなど。
夕方、ベンチで笑い声を立てて楽しそうにしていたおじさんとおばさんだったが、数年前の春に相次いで亡くなり、今はそんな話をする人もいない。
そして、今の公園はその頃に比べると、猫たちの暗い歴史があったなんて想像もできないほどの賑わいぶり。
犬を連れた人々や、わざわざ遠くから観光バスでやってくる人たちの明るい声が飛び交う。
以前には、「あそこは行くところがない年寄りと貧乏人しか行かないところだよ」と言われていたが、今、休日には人がごった返し、キッチンカーや出店なども出て、観光地のようになっている。
貧乏人と、行き場所がない老人が行くところだった公園。
捨て猫のたまり場になって、悲惨なめにあっていた猫たちがいた公園。
それが今ではすっかり整備されて、池のほとりにしゃれた店もいくつかできて、近くにはスターバックスもできた。
休日の天気が良い日には、駐車場に車が入れなくて並ぶほどだ。
さまざまなコスチュームを着させられた犬たち、ユーチューブに投稿するためにパフォーマンスをする人、我が物顔で高級車を身障者向けのスペースに止める人、手を絡めあい、みつめあうカップルなど、さまざまな人たちで賑わう。
けれど、冷たい雨が降る日には人影もまばら。
晴れた日には幸せそうなワンコたちと幸せそうな人々が行き交う公園も、雨の日にはほとんど人影がない。
冷たい雨に背中をびしょ濡れにしながら餌を食べる猫たちのことを、知る人などいない。
この4月には公園を管理する市役所の体制が変わり、せっかく立ち上がった「花猫の会」の存続が危ぶまれる。
会員たちは、過去に、寒さと恐怖に怯えながら空に還ってしまった猫たちのためにも、なんとか自分たちの力で存続させたいと願いながら、餌を食べる猫に傘をさしかけ、自分たちもまたびしょ濡れになりながら、猫たちの元へと通う。