ジイジという名の猫がいるという古い家。保護ボランティアさんのご実家だという。
そこで風を感じたり、ひなたぼっこをしたり、ガンに侵食されつつあるシロにも、そんな余生を過ごさせてやりたい。
ボランティアさんからその話を聞いて、シロを保護したい気持がいっそうつのった。
なんでもそうだけれど、初めは小さな浸食から。
そして、気づくと、とんでもないことになっている。
シロの耳もそうだった。
今度のことでは、かなりハードな経験もした。
「正攻法ではなんともならないのが役所だよ」
市役所の対応にショックを受け、疲れていたせいもあって倒れたあと、そんな助言をくれた方がいた。
やっぱりそうなのだろうか。その方の助けもあったのか、騒ぎになったのが理由なのかはわからないが、あとで市役所から電話があり、捕獲器を置いてもいいという許可がおりた。
これで、こそこそしなくてもよくなり、可能性も広がった。
けれども、とても用心深いシロは、一度目の捕獲に失敗してからというもの、私との距離を回復させてくれない。
それで、決まった餌やりさんのほかに、勝手に餌をやっている人たちにも協力を頼んでみた。
結果は、メールを無視する人、なぜか怒る人、反論する人とさまざま。
「ここの猫は、このままここで終わるのがいいのよ」という意見が圧倒的。
これまでは、自分もそう思っていた。
たいてい、ここの猫たちの最後は、徐々に弱って痩せていき、いつのまにか姿をみなくなる。それでいいのだと。
けれど、シロの場合はあまりにもひどい様子なので、みていられなくなって決心したわけで。
人はそれぞれ。考えもそれぞれ。
それでも、中には協力をしてくれる数少ない人もいて、そのことを知ったのは貴重なことだった。
誰だって、めんどくさいことには関わりたくないものだし。
だから、無視をするのはかまわない。でもね、せめて邪魔はしないでほしいんだ。
勝手にバラバラと餌をやられたら、シロ、あえて捕獲器の餌には見向きもしないわけで。
シロのことをかわいそうだかわいそうだと言うばかりでは、なんにも解決にはならないんんだけど。
でもね、今度のことでは、いろんな人のハートの中がかいまみえ、なんとなく、これからの生き方までも考えさせられたわけで、怪我の功名というか、副産物というか、これまでほとんど冷戦状態だった人からの電話があったりで、思いがけずうれしいことも生まれた。
できれば捕獲器なんか使いたくないし、乱暴なこともしたくない。
でも、病状は、進んで、右の耳も侵食されてきているし、顔や眼にもいくという。顔が溶けていくようになるらしい。
だから、できるだけのことはやって、諦めるのはそれからだと思うんだ。