そう言った人は、とっくにもうこの世にはおられないから、今頃は、あの世でそのことを確かめているのか、それとも、あれっ、間違えたな、と思って苦笑いしていらっしゃるのかもしれない。
これほどAIが発達しているのだから、彼岸との交信もそのうちにできるようになるかもしれないが、それはまだまだファンタジーの世界。
その人は、小説の書き方を教えてくれる教室の講師だった。
戦争を体験した人だったから、きっと、その苦しさを通り抜けた末に出てきた言葉だったのだろう。
講師が小説の批評をするときの、眼鏡の奥の怖いようなまなざしに、背筋が寒くなるときがありました。
教室は、作家を目指す人たちだけでなく、子育てを終えてちょっと暇になった主婦たちも多かった。
なかには、芥川賞の候補になる人も出てきたし、新人賞を貰う人も出てきて、安くはない受講料なのに盛況だった。
あるとき、講師が目をかけている人たちのグループから、あなたも入らないかと声がかかり、べつに断わることもないかなと思い、興味本位で入ると、驚いたことに、カミソリの入った手紙が送られてきたのです。
裏切り者! という文字と一緒に。
たしかに、誘われて入ったグループは、講師のお気に入りのグループだったから、敵対心を持つ人たちもいて、小説の教室が、派閥争いにまみれていた感じもあったんです。
そのうちに、悲惨な事件が起きてしまいました。
噂になっていた不倫のカップルの片方が、電車に飛び込んで亡くなったのでした。
不倫が原因なのか、それとも、書くことに絶望したのか、誰にもわからなかった。
それでもその教室は存続し、みな、噂はするものの、無関心を装っていました。
講師もそのことには触れなかったし。
教室は、むしろ厳しさが増して、講師の批評を聞いて泣き出すものもいて、やめていく人も多くなった。
「みなさんね、この世には神も仏もないんですよ」
確かに私の小説には、神様が降臨しなかったようだ。
だけど、平和で気ままな猫を見ていると、なにも欲がなくなってくる。
苦しいときには、心の中にあるものに祈る。
今日のミーナは、こんなとこで寝てはります。
少しは涼しいのかな?
猫には、神も仏もなく、今この時の心地よさがなによりの問題。