あたしの物語

あたし、三毛子は、ツィンで生まれたの。でも、お兄ちゃん(弟?)はまだ一つの歳にもならないうちに死んじゃったんだ。まるで、道路に昼寝でもしてるみたいに横たわってた。頭から血を流してて、ちっとも動かなくなっちゃってて、あたしは怖くなってそこから離れてしまった。だって、あたしもおんなじめに遭うんじゃないかと思って。

それからしばらくは、草ぼうぼうの家の庭の隅で、これまでのようにグレ子やグレ男、あたしの親代わりになってくれていた茶トラおじさんたちと一緒だった。寒くてしかたがないときはみんなで猫まんじゅうして温め合ってしのいだの。近くの、親切にしてくれるお家にはよくみんなで遊びに行って、ひなたぼっこしてね。

姉さんみたいなグレ子と、あたしを育ててくれた茶トラおじさんに挟まれて

少しして、あたしはどこかに連れて行かれてなにかされたみたいだけれど、でも、また元の場所に放してもらったから、よかったなあ。そのうち、グレ子もグレ男もおんなじめにあったみたい。グレ子とあたしはおなかのところの毛がなくなってて、大きな傷が残ってて、しばらくはつるように痛いときもあったけど、そのうちに治ったし、毛も生えてきたんだ。

遊びに行っていたのは、まわりのいろんな家だった。そのうち、あたしたちがよく遊びに行っていた庭のおばさんが、おいでおいでって呼ぶもんだからさ、じゃあ行ってやるかってついていったんだ。おなかもすいてたしね。そうしたら、おばさん、あたしの大好きなチュールを出して、家の中に入れようとして。結局あたしはチュールの魅力に負けちゃったってわけ。

それからがとんでもないことになっちゃって。ていうか、とても辛い日々だったってわけ。だってずっと檻のなかにとじこめられてさ。自由に動けなくなっちゃった。

少したつと檻の外には出してもらえたんだけど、やっぱり外には出られなかった。グレ子姉さんやグレ男兄さんのいるところには戻れそうにもないからさ、いつもあたしは窓に貼りついて外ばかり見て、みんなが通るのをみては、助けて、ここから出してって声をあげてたんだけど、みんなは知らんぷりで通り過ぎちゃうんだよね。えっ、なんでって思うわけ。わかんないわけ。

どうして? みんなあんなに優しくしてくれたのに、なんで助けにきてくれないのよ、あんまりじゃないのって、あたしはただただ悲しかった。

そこから先は、ひどいもんだった。だって、ある日いきなりあたしは車でどこかに運ばれちゃって、知らない家に連れて行かれちゃった。おばさんはいい人ぶって里親がどうのこうのって言ってたけどさ、あたしにしてみりゃいい迷惑よ。だから、途中、車の中で入れられてた段ボール箱を破って飛び出して暴れてやったの。

おばさんはびっくりしてたけど、車はそのまま走ってどこかに止まって、里親さんちのおじさんとうちのおじさんが二人がかりで車のなかであたしを捕まえようとして汗だく。座布団かなんか被せられて、あたしはついに捕まってしまい、家の中に。でも、そこには、でっかい白猫とグレーの猫と、それから、けったいな茶トラの猫がいて、茶トラの猫は檻のなかに入りっぱなし。

みていると、どうも白猫がここんちのボスのようで、あたしをみるとフウフウと吹いてばかり。こっちは新入りだから、しょうがないんだけど、それにしても、あたしはおもしろくないから、また閉じ込められた檻の中でふてくされてたの。つまんないったらありゃしない。とにかく元のグレ子姉さんたちのところに戻りたいなあ、自由な暮らしはよかったなあって、思い出すのはそんなことばっか。

あたしたち猫仲間で人気のイケメン、ニャンコスターともよく遊んでた。

ずっとずっと、このまま檻のなかにとじこめられっぱなしの暮らしなんて、あたしには考えられないよ。そう思って、里親さんたちに思いきり刃向かってやったの。そうしたら、すぐにまた元の家に戻ることになっちゃって、計算通りってわけ。またグレ子たちの近くに戻れるんだって思った。

外に出さないと決めたらしいおばさんと、なんとしても外に出たいあたしの攻防はしばらく続いた。あたしはベランダから隣りんちの屋根に飛び移ったり、窓から屋根に飛び降りたり、そのたんびにおばさんはギャアギャア騒いでた。

で、結局はあたしの勝ちってわけで。それで、めでたく外に出て行けるようになったんだけど、でも、グレ子たちとの仲はもう復活しなかった。あたしのほうから、また仲良くしてよって近づいても、絶対に受け入れてくれなかったんだ。グレ男もそう。おまえにはもう人間の匂いがついてしまった、ここにはもう戻れないんだって、怖い顔をして追い払うんだ。

あたしはわけがわかんなくて、これはなんかの間違いじゃないかって思って、何度も何度も行ったんだけど、そのたんびに追い返されたの。そして、今ではついに、あたしとグレ子は威嚇しあうようなことになっちやった。でも、それはたぶん、あたしたち猫の生き方なんだよね。

カーテン、メチャクチャ

あたしやグレ子に避妊手術をしてくれたのは誰? 餌をあげてくれてたのは? おばさんはそんなことをいまだに気にしてるみたいだけど、もういいじゃん、とあたしは思ってる。あたしはあたしの縄張りを守るし、グレ子はグレ子の縄張りを守る。

あたしたち猫にはさ、今しかないんだよ。明日のことは、ほんとにわかんない。あたしは野良をやってたから、そこんとこはよくわかってる。だからよろしく頼むわさ! おばさん。新しいダチもめっけたしさ。

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