化粧をしながら思うこと

【古い傘を解体して出た布を飾ってみた】

化粧をしているときは、いろんなことを考える。
たとえば、「あいつ、今頃なにをしてるかなあ」とか、「あの人はまだ元気にしてるのかなあ」とか。

化粧を終えて着替えをして、少しばかりよそゆきの姿になった自分を見て、これから会う相手のことや、その場所に集まる連中の顔とか、どこへ行ってなにを食べようかとか、さまざまな想像をする。

実際には、想像をはるかに超えたことに出会うこともあるが、たいていはがっかりしてしまうことの方が多い。
たぶん、あまり期待しすぎるからだと思うのだけれど。

【玄関に飾ってみた布 本物のひょうたんが一つ】

でも、あとで思い出すときには、時間のオブラートにくるまれて、なんと素晴らしい時間だったろうかと感じている。

だって、今は、化粧をしながら考えることは、「アズキのやつは、今日もちゃんと待っててくれるだろうか」、「ふじ子はやっぱりまた大食いするんだろうか」などというような現実的なことばかり。

なんと色気がないことか。
そして、日に日にふえていく、覚えがなかったはずの肌の変化。

全ては、みな幻になってしまっているのだ。
笑い皺ならいいが、縦にも皺があるのを発見したときの驚きといったら・・・。

さてさて、いよいよ、なのだ。
そう思っていたら、体まで悲鳴をあげはじめた。

ドックン、ドックンという鼓動が、頭に響いてどうにも気になるので、耳鼻科に行ってみたら、拍動性の耳鳴りだという。
なにしろ、心臓の音がつねに頭のなかで、ドックンドックン。

たまらない。
処方された薬を飲んだら、少し緩和されてきたけれど、拍動が消えたわけではない。

【アズキ、顔は横を向いているが、しっかりこちらを窺う。得意技】

というふうにいろいろ大変で、つけまつげをつけてみたり、頬紅をうっすらと刷いてみたりした頃のワクワク感がすっかり消えた今は、とりあえずみっともなくなければいいかというレベルに変わってしまった。

化粧をしたり身支度をするときに感じた、世の中に向かっていく感じの武装体制もとっくに消えて、今は、頭のなかでドックンドックンというせわしない拍動に追い立てられている始末。

それでもね、些細なことでもいいから、またワクワクをみつけたくて、「コラーゲンでしっとり」というキャッチコピーの保湿マスクを買ってきて、さっそくつけてみた。

そして、つけたまま、ミーナのお気に入りのハシゴを置いて、壁に布を貼っていたら、ミーナが、「けったいなやつ!」という顔。

【ミーナのびっくり顔】

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