柳に風

こんな暑さ、いまだかつて、体験したことがなかった。
しかも先週から始まって、何日も続いた。

40度近い気温のさなか、それでも、先週は、傾聴ボランティアの集まりに参加。
集まったみなさん、年配者が多いのに、至極、元気。
暑さにげんなりしているのは自分だけだったのかと、驚いた。

そして、会合が終わると、冷房のきいた屋内から、ランチの場所へと移動。
外に出るといきなりの熱波が押し寄せ、歩くと、足元からも暑さが立ち上ってくる。

ああ、こんなときは家で昼寝をするに限るなあと思いつつ、ランチの場所へと移動すると、ボーイッシュに髪を刈り上げ、それをメッシュにしたおばさまが、威勢よく出迎えてくれた。

こんなにも暑いさなか、店内はいくら冷房がきいているとはいえ、なんという元気さか。
驚いて席につくと、彼女の威勢のいい声が響く。

食後のコーヒーはアイスがいいか、ホットがいいかという彼女の質問に、私は、「あのう、ホットでお願いしたいのですが」と我先に言うと、続けて何人かが私もホットでと言った。
すると、彼女、アイスの方が楽なのに、この暑いなか、どうしてもホットなのかいと笑いながら言う。

たぶん、アイスなら、ペットボトルのコーヒーですむのかもしれないなと、私たちはそんな話をしながら、彼女の思いきったヘアーの話題に移った。
メンズっぽいヘアーは涼し気で、はっきりとしたものいいの彼女の雰囲気によくあっていた。

すると、誰かが、かなり垢ぬけたヘアーだと言い、わりと進んでるねという話をした。

「だって、この土地の人たちは、風に任せて揺れる柳のようでしょ。まわりの人たちにうなづいて合わせて目立たない恰好ばかり。話をしても、本音を出さないから、なにを考えてるんだかわからないってこと。そんな風潮が嫌いで私はここを出て東京に行ったんだけど、でも、結局はここに帰ってきちゃったけどね」

すかさず、どこかから、そうそう、と同調の声があがった。
だから、せめて、こういう場所では意見をはっきりと伝えるようにしなくてはと、いうことで場はおさまった。

【あまりの暑さに、蝶も道端のほんのわずかな水たまりに口を寄せる】

なかなかにしていい雰囲気だったなあと、暑さの中、出かけて行ってよかったなあという思いで帰ってきて、夕方は、猫たちが暑さに参っているのでしないかと気がかりで、公園へ行ってみた。

でも猫たちは意外と元気で、食欲も衰えていない。
緑が茂っているところだから、暑さをしのげる場所があちこちにあるのだろう。
長年ここで暮してきたのだから、猫たちにもそれなりの知恵が備わっているようだ。

【左、アズキ。右はふじ子】

初めは険悪だったアズキとふじ子の距離はぐんと縮まった。
このごろは餌を食べる前には、どちらともなく挨拶を交わすように舐めあう。

ほほえましい二匹の様子を眺めながら、大阪からこの土地に越してきたばかりの頃に、この公園で聞いた話を思いだした。
「ここの人らは、なんに対しても表立ったことは言わないんだ。陰でしか言わないんだ」

そんな話をしてくれた人は、やはりどこか他の土地から越してきたらしい人であった。
そのとき私は、ただ聞き流していたのだけれど、この土地で生まれた人すらもそんな感じを抱いていることを今日の席で知り、なるほど、と思った。

でも、それは、もともとは日本人の体質であり、どこにでもある話だ。
「柳に風」という言葉だけをとりあげてみれば、風流であり、なにより涼し気だ。

年を重ねてくると、むしろ、はっきりとした物言いがいいとも思えなくなってくるから微妙なのだ。
裏で陰口を叩くのは、もちろん戒めなくてはならないけれど、だからといって、なんでもかんでもはっきりと言えばすむというものでもなく、かえってうまくいかなくなるということにもなる。

何に対しても、そのあんばいが難しいものでして。
そのあんばいを知っていくことが知恵というものかもしれないなあと思いつつ、さて、それを自分の上に重ねてみると、自分はかなりの知恵不足なのである。

ついつい、正直になりすぎて、洒落にならないどころか、険悪になってしまうこともある。
「柳に風」の風情を身に着けるようにしたいのだけれど、道のりはまだまだ遠い。

と、今日もまた、暑さの中、ただ流されて、日々の用事をこなしていくのが精いっぱいなのであります。
のんびりと昼寝のミーナを横目に見ながらね。

【気持ちよさげにお昼寝のミーナ】

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