日暮れ時、アズキの様子を見に行った帰り道。
池の淵の藤棚のあたりに向かって、なにやら黒い塊が動いていた。
「えっ、あれ、なに?」
急いで近寄って行くと、その塊は、ときどきよろけながら動いている。
塊に見えたのは、結構大きな亀。
みたところ、遊歩道を山側に向かって横切ろうとしている様子。
さらには、アズキがちょうどその方角にいるではないか。
とっさに、これは池に返さねばと思い、抱えようとするも、かなりの大きさになかなか手が出ない。
それで通りすがりの、ちょっとマッチョなお兄さんにお願いした。
マッチョ兄さんは快く亀を持ち上げ、深さのあるところまで移動して池に投げ入れた。
バッシャーンと、すごい音をたてて亀は水の中に。
少し乱暴すぎやしませんかと、マッチョ兄さんにひやひやしながら、大丈夫かなあと、亀が水面に浮かんでくるかと見つめていたが、気配もない。
でもまあ、よかった。亀さん、もうあんなところに出てきちゃあだめだよ。犬もいっぱいくるし、誰かにみつかって捕まえられてひどいことをされるかもしれないし。
などと思いながら、駐車場に向かい、車に乗ってから、ふっと、別の考えが浮かんできた。
もしかして、あの亀は産卵のために陸に上がって、産卵する場所を探していたんじゃないのかと。
だとしたら、私はとんでもないことをしてしまったことになる。
せっかくあそこまであがってきて、ようやく藤棚の下にたどり着こうとしていた矢先に、また池の中に投げ入れられたのだから。
亀さん、ごめんな。よけいなことしちゃったかもね。
放っといてあげるのが親切ってこともある。
さっそく、亀の産卵の時期を調べてみると、これが6月から8月頃とある。
ショック!
あれはやっぱり産卵のためだったんだ。
ときどき私はこういう間違いを犯す。
親切のつもりのおせっかい。
相手にとっては大きなお世話で、迷惑なのだ。
放っといてあげることが、優しさということもけっこうあるだろう。
猫もそう。
ついついかまいたくなるけれど、寝ているときはそっとしとこう。