怒ってるの?

富士をみたのはひさしぶりだ。
春から夏にかけては、富士はあまり姿をみせてくれない。見せてくれても、輪郭がぼんやりしている。
けれども昨日は、ひさしぶりに見ることができた。
すると、これもひさしぶりに会った人が、「富士山、きょうひさしぶりに見れたよう」と、喜びの声をあげる。

いつもおしゃれな恰好で歩いてくる方。
「あなたと会うのもひさしぶりね。元気だった?」と、微笑みながら坂道を急ぎ足で下って行った。
いつもたったそれくらいの言葉のやりとりだけれど、それがじんわりとくる。

その人は、誰とも一緒に歩かず、ほとんど誰とも喋らないけれど、機嫌よさそうな顔で歩いていらっしゃる。
なので、ついつい、こちらも笑顔になる。

不思議なもので、顔の表情というのは、伝染するものらしい。
相手の表情が固いと、こちらもつい固くなる。

若い頃、電車に乗ったとき、退屈なときはそれとなくまわりの人の顔を眺めていた。
すると、気づいたことがひとつ。
歳を重ねた人はどうして、みんな怒ったような顔をしているのだろうということだ。
そして、わりとぶしつけにじろじろと他の人の顔を見る。

そうして、自分もだんだん歳を重ねてきたこのごろ、ようやく気づいた。
顔の筋肉が緩んできて、どうしても口角が下がってくる。
すると、たちまち不機嫌な顔になってしまうのだ。
そして、眼も悪くなってきて、当然、ものをみるときはじっと見なくてはわからなくなる。
なので、結果的にじろじろ見るということになる。
でも、全てはトシのせいなのだと、諦めてはいけない。

だって、歳をかさねても素敵な女もいるし、カッコイイ男もいる。
無理に若作りをしているわけでもないのに、なんだかいい年の取り方をしているなあと、みとれてしまうことがある。
それでとりあえず、口角だけは上げておくように意識している。
怒ってるの? と訊かれないために。
なによりも、人に伝染させるような不機嫌な顔にならないように。

無理に明るい顔をしなくても、ちょっと気をつけるだけでも違うようだ。
すると、明るい色の服に手が伸びる。

なにか、一つ、ほんの小さなことでも、新しい空気をこしらえるようという気持になってくる。
今、夢中になっているのは、家の中の空気づくり。
風通しのいい家にするために、風の通りを邪魔するものはできるだけ排除するようにしてみた。
すると、不思議なもので、それは家の中のことにとどまらず、胸の中の風通しもよくなってくる。

怒ってるの?
それでもやっぱりそんな顔になってしまうときは、富士山の顔を見に行く。
不思議なことに、その日その日で顔がちがってみえる。富士にも表情があるのだ。

富士が顔をみせてくれないときには、あずきバアバのところで時間をつぶして帰ってくる。

でも、アズキバアバは人気者だから、先着の方がいるときもある。
そんなときには、そっと遠くから様子をみて帰ってくる。 
はじめてアズキをみたときから、アズキはもうバアバだったような気がするが、でも、一度だって、不機嫌な態度をみせたことはない。

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