猫様のまなざし

そのまなざしが好きで、猫様の家の前を通るときには、しばらく立ち止まって眺める。
なのに、猫様は、なによ、あんた何者よ、という顔で私をみつめ、そうして、門扉のほうに後ずさる。

猫様はだいぶ前に、我が家にも顔を見せたことがある。
見かけない猫だし、どう見ても野良猫の風体でもないから、驚いて外に出ると、豊かなお尻をフリフリしながら、立ち去った。

これで、けっこう逃げ足が速いのですよ、猫様は。

もしかして迷い猫かもしれないと考え、それならば、保護して飼い主を探してやらなくてはと焦って後を追ったけれど、見かけよりも意外と早い足取りで、行方を見失ってしまい、それきり見なくなった。

そのあともずっと気にかけていたのだが、ある日突然に、近所の門扉の前にいるのを見てほっとした。
そばには飼い主さんがいて、一緒に駐車場でくつろいでいたのだ。

この猫、見かけたことがあるんだけど、と飼い主さんに伝えると、「ああ、引っ越したばかりの時に逃げ出しちゃったんだ」と苦笑い。

猫様、それからは、道までは届かない程度のリードをつけて、夕方になると、駐車場にいるようになった。
しばらく空き家だったその家は、門の前に猫様がいることもあって、とても華やかな佇まいになった。

そして猫様がいないときには、ちゃっかりと、隣りの家で餌を貰っているニャンコスターがそこにいる。
猫様もニャンコスターも、どっちも好きな私は、それで、どうしても立ち止まる。

高倉健さんを思わせるあなたを、私は前からずっとお慕いもうしておりました。

話しかけ、近づこうとするが、なかなかにして、二匹とも用心深く、いつまでたっても距離が縮まらない。
いつもフラれては、がっかりして帰ることになるのだが、性懲りもなく、つぎの日にはまた、近づいてしまうのだ。

そろそろ年末だというのに、そんなことに気をとられていていいのかと、お叱りの声が天から落ちてくる。
そうだ、もう年末なのだ。

なのに、なんにも準備ができていない。
日暮れ時のように、心細くなる。

せめて、ミーナが破った障子くらいは貼らないと。
それから、処分しようとしていたものだけでも片付けなくては。

なぜか、つぎからつぎへと、しなくては、と思うことが出てきてしまう年末。
もともと怠け者だから、完璧など目指してもしょうがない。

それで、せいぜい、ミーナの背中を撫でながら我が身を慰め、きっと明日はやろう、と思いながら、今日の一日をリセットする。
そうだ、年末から年始にかけては、今年のリセットをすることにしよう。

いいことも悪いことも、すべては過ぎていくのだから。
気持を新鮮にして、新しい年に向かうために。

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