なりふりかまわず、という言葉は、あまりいい意味では使われない。
でも、今回のオリンピック、スピードスケート、1000メートルに出た高木美帆選手は、なりふりかまわずのひたむきさが冴えていた。
自分がどう見られているかなんて全く頭になく、すべての意識をレースに向けて集中している様子だった。自分の番がくる少し前の、彼女の様子をみていると、まわりのことは全然見ていない。そして、下を向き、踏ん切りをつけるようにきりっと顔をあげて、スタートに向かった。
そのときの彼女の顔は、雑念を超越したような表情に溢れていた。
髪は無造作に長い髪を後ろで結わえただけ。ほつれた髪が顔を覆っても気にしない。化粧っ気もなかった。顔色もあまりよくなかったが、勝負に向かう人の顔には毅然とした輝きがあった。
思った通り、彼女の滑りには無駄がなかった。彼女のレーンのその先が輝いているようにすらみえた。そして、結果は金。ゴールしてからは放心している顔で、二位に入った外国の選手がしきりに髪を気にし、カメラを意識しているように見えたのとは対照的だった。
なりふりかまわず、ただ滑る。夢中で滑る。高木選手は、氷と会話しながら滑ったと話していたが、彼女が意識していたのは、氷のみ、ということだろう。
レース前の、獲物を狙うような眼もカッコイイし、ゴールしたあとの空っぽになってしまったような、ちょっとぼうっとしたような顔もまたいい。その高木選手とは対照的に、2位の選手は、やたらと長い髪をいじたっりカメラを気にしたりと忙しそうだった。
なりふりかまわず、ただ、限界に挑戦する鋭い眼には、身震いするほどの魅力があるんだよね。運動が苦手な自分からみると、コンタクトレンズが外れるほどだという風圧を受けて、氷の上を滑る彼女たちは、異次元の星たちだ。