願いを叶えるドライブ

最後に行きたいところはどこですか?
そんな、ラストドライブを扱ったテレビ番組があった。

ロマンティック街道。ドイツ旅行の時に列車の窓から写したもの。(写真はどれもかなり古いもの)

ドイツの番組で、終末の患者たちが暮らすホスピスの中でのことである。一人の癌患者が最後に海を見たいといい、その願いを叶えるために動く人たちの話だ。偶然にみたもので、テーマがテーマだから、けっこう深刻なんだろうなあと予想しながらみたのだが、思っていたほどではなく、途中で笑ってしまう場面もあった。

ドイツにはそうした機関があって、救急設備が整った車、医療に詳しい同乗者、運転手などスタッフが揃っているのだそうだ。要請があればそのつど綿密な計画や準備を整えて実行に移す。

最後に海を見たいといった女性は海への移動中、ベッドのそばの椅子に腰かけて、向かい合って座る看護師の女性といろんな話をする。内容はすでに亡くなっている夫との暮らしについてが主だった。
何一ついいことはなかった、とその女性は話す。たしかに、その表情には辛さがにじみ出ていた。

話の様子から、夫とはあまりうまくいっていなかったことがわかってくる。それでも、最後は夫とよく行った海へ行きたいという。
海は海でも、夫と行った場所ではなくて、そこからちょっと離れたところに行きたいのだという。微妙な心理だ。

日本平夢テラスからみた海

そして、一行は海に到着し、砂浜用の車椅子で波打ち際まで行くことができた彼女は、はしゃいで満足げだった。さらには、彼女のもう一つの願い、海辺で鴨料理を食べたいということも叶えられる。スタッフが予約しておいた店で、彼女はみんなと笑いながら食べ、よく喋った。
モルヒネを服用しながらの移動だったが、彼女の顔つきはしだいに陽気になっていった。

レストラン

その番組は、朝ごはんのあとにコーヒーを淹れてこたつに坐り、寝そべる三毛子を横にしてみたものだった。ふいに、ずっと昔に行ったドイツの風景を思いだし、さらに、彼女の笑っているような泣いているような顔をみて、いつものように朝の家事にとりかかる気になれず、しばらくぼんやりしてしまった。

三毛子は炬燵が大好き

日本にも、最後の願いを叶えるドライブを企画してくれる機関はあるのだろうか。あまり聞いたことがないから、たぶんないのだろう。個人ではよくあることかもしれないが。

その番組のせいかどうかはわからないが、番組が放映された数日後、移動用のベッドに病人らしき人を乗せ、古墳へと続く坂道を登って行く人たちをみかけた。晴れてはいても冷たい風が吹いていて、横になっている人は毛布を掛けていた。気にしながら後を歩いて行くと、途中で、坂道のきつさに、上まで行くのは危険だと思ったらしく横道へとそれた。

11月28日の富士。快晴。

あの人たちはきっと、動くことが叶わない病人に、富士山をみせてやりたかったんだろうなあと思いながら、今日も坂道を上って行くと、いつにもまして素晴らしい晴天で、めったにみることができない神津島までみえた。神津島は、伊豆半島よりもさらに先。よほどいい天気でないと、みることはできない。 

神津島

「嫌なことがあったときはここにくるの。するとすっきりして帰れるのよ」
と、よくここにくる人が言う。確かに、ここにくれば、気分を持ち直して帰ることができる。古墳の石の上にはもう、チビもまる子もいないけれど、それでも何百年と生きてきた大樹たちが見守ってくれているように立っている。

道行く人のなかには、チビとまる子は元気かいと声をかけてくれる人もいる。はい、元気ですよう、と答えると、ほっとしたような笑顔が返ってくる。わさわざ、野良猫が多くいるという他の場所まで教えてくれて、今度はそっちに行ったらどうかという人まで。でも、そこまでは・・・。私は苦笑いを返している。

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