普通は、2月といえば節分。恵方巻きなど。でも、郷里の八戸では、えんぶり。冬の大イベントだ。豪華な山車が練り歩く夏祭りもいいけれど、凍った雪の上で舞う、えんぶりという祭りのほうが、どちらかちといえば好き。地元では、えんぶりがくると春がくる、と心待ちにする祭り。
立春が過ぎてもなお、物みな凍るような寒さと雪が続く土地。それでも、えんぶり祭りがくると、ああ、やっと春だなさ、と人々は思う。中学の同窓生たちとのラインのやりとりでも、2月に入るとえんぶりの話題が出る。みんな、春を心待ちにしているのだ。
えんぶりは、その年の豊作を祈る祭り。踊り手たちは、馬の頭をかたどった烏帽子をかぶって、頭を地面につけるほどに低くして、カネや太鼓のリズムにあわせて大きく振って舞う。踊りながら、じゃんぎ、と呼ばれるカネのついた棒を激しく振るので、いっそうリズムが高まる。
重要無形文化財にも指定されている踊りはそれぞれの地区ごとにチームを組んで町を練り歩いたり、神社に奉納の踊りを捧げたりする。
そして忘れてはならないのが、子供たちも参加することだ。えびす舞に大黒舞と、縁起がよくてユーモラスな踊りを披露する。
実家の父も元気なころには参加していた。踊り手ではなくカネを鳴らす役だった。シンバルを小さくしたようなカネをリズミカルに鳴らしながら、みんなと同じ半纏を着て満面の笑みを浮かべながら練り歩いていた。
横浜に住んでいたころ、その父が急に連絡をよこしたことがあった。
「今、東京さ、きてる」
「えっ、なんで?」 仕事をしていた私は、そんな急にこられてもと、ちょっとありがた迷惑な気持になった。
「うん、東京のさ、デパートでな、八戸の物産展があってな、それの宣伝で、みんなときてんだ。なんも、みんな一緒だがらさ、すぐに帰るべ。ちょこっと見にきたらいいべ」
そう言われて、早速に東京のデパートに行った。少し時間に遅れてしまい、息をきらしながらデパートのホールにたどり着くと、まさに頭をつけんばかりに烏帽子を振って踊る人たちの後ろに父がいて、陽気な顔でカネを叩いていた。
私が子供のときには、いつも不機嫌な顔をしていた父の笑顔をみて、ほっとしたのを覚えている。
※ 2022年のえんぶりは、コロナで中止の模様です。