極道さんとランディさん

【コンビニで出会ったワンコたち。ソフトクリームを舐めていた】

極道さんは、いわゆるヤクザではなく、同人誌のペンネームを極道という名前にしていたから、そんなニックネームで呼ばれていた。

おおよそ、極道とは結びつかない親しみやすい顔と丸っこい体の彼は、ラーメンが大好きで、営業職であるのを利用してはラーメンの食べ歩きも兼ねていた。

【ぼくたちにもソフトクリームください】

当然、小説にもラーメンが出てくる。
その描写、ラーメンの熱さ加減、味の良し悪し、油っこいかどうかなど、まるで眼の前に置かれたもののようにリアルだった。

それがもとで、私もラーメンが好きになった。
極道さんが北海道に出張に行ったときに送ってくれた札幌ラーメンは、私の好きな田舎風のさっぱりした味とはだいぶ違っていたが、太めの麺のこってりしたその味には、忘れがたいコクがあった。

【話によく出てきた札幌のラーメン横丁】

同人誌仲間には、ラーメン好きの極道さんのほかに、ランディさんという個性的な女性がいて、その人の書くものには身に迫ってくるものがあって、仲間内の評価も高かった。

ランディさんは、その後プロの作家になって、先日、ひさしぶりに図書館に行ったら、彼女の著書がいくつも並んでいるところにいきあたった。
その場所の前で立ち止まると、小柄な彼女の体からは想像できないほどの、勢いよくほとばしる文章が思い出され、仲間たちのことや交わした会話まで浮かんできた。

ランディさんは、「田口ランディ」という。
そのころから、ランディと名乗っていた。
外見は地味だったが、話しだすと、独特なものの見方をするので、印象が強かった。

仲間の中心になっていた人は、「小説現代」の新人賞を受賞した人で、れっきとした作家。
メディアにもよく登場していた方だった。

【公園もハロウィンモード】

あるとき、エレベーターで彼と二人きりになったときに、彼は「いい女だね」と言ってニヤリ。
そんなふうに言われたことはなかったから照れてしまったのだが、降りぎわの言葉にまた驚いた。
「君は、ぼくの13番目の女になる」

「はあっ?」
こちらも、もちろん、真に受けるわけではない。
彼とつきあいの深い極道さんによると、その人は、だれかれなしに、そう言っていることを聞いていたし。

なにしろ、彼らの交友範囲は広く、ときおり集まる機会があると、やってくるのは、いわゆる世間の常識という枠からは外れた様子の人たちも多く、ときには、この人は男だろうか、それとも女だろうかと、考えてしまうこともある。

だが、彼らと話し出すと面白くて、話がつぎからつぎへと展開し、退屈することがない。
時計をみるのも忘れるほどで、あわてて電車に飛び乗ることが多かった。

【ミーナ、靴が大好き。いじったまま枕にして寝てしまう】

私も仕事を持っていたが、仕事上のつきあいは、ほとんどが常識と縛りという籠のなかのつきあい。
それがいつしか身に沁みついて、籠のなかから出られなくなってしまう。

自分が常識だと思っていたことなんて、ほんのゴミみたいなものだったのだと気づくとき、人は他人やものごとに寛大になる。
あなたの常識が、私の常識とはまるで違うときにも。

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