アズキはいつも、下を向いているか、遠くをみている。
下を向いてコックリコックリしているときもあるが、たいていはなにか遠くをみつめているような表情をする。
なるべくアズキ目線でみてみようと思い、アズキの眼の高さまで体勢を屈めたり腹ばいになったり・・・。
今日も石畳の上でアズキの目線でと思い、腹這いになっていると、通りがかった中年の男性が怪訝そうな眼差しで私を見ていた。
男性はなにか書類を持って藤棚を見上げては、記録している。
どうも、ただの見物客ではなさそうだ。
そう思って尋ねてみると定時制高校の教師で、これからここで生徒たちとミーティングをするのだという。
アズキは早速ツツジの植え込みに隠れて身を潜めた。
なので事情を話し、他の場所に変えてほしいと頼むと、快く応じてくださった。
ほかのことでは燃えない自分が、猫のことでは前に出ることができる。
信じられないほど頑張ることができる。
なんと、あれほど公園の猫に関わりたがらなかった市役所が動いてくれて、あずきの保護に反対していた餌やりさんやその背後にいる闇のリーダーを説得してくれたのです。
責任者が変わるたびに暗黙の了解として申し送られてきたことに、いよいよ決着がついたのです。他の猫たちのためにも、なんと喜ばしいことだろうか。
あとはもう、アズキをどうやって保護するかだが、なにしろ人出が多い時節、捕まえるほうもアズキのほうも落ち着かない。
あずきのことを受け入れてくれる日向っ猫さんの事情もあって、連休に入ってしまった。
撫でられるんだからと、簡単に思えた捕獲が、アズキの変わり身の早さに追いつかない。
バアバだと舐めていたが、これが意外とむずかしい。
シロの逃げ技がパワーだったとすると、アズキのは空気を読む技。
ほんのわずかな音や気配を見逃さず、するりするりとすりぬける。
「ねえ、アズキ~、オウチ猫になろうよ。いつもビクビクしないで呑気に暮らせるからね~」
呼びかけてみてもアズキは相変わらず背を向け、暮れていくあたりを見つめてばかり。
なんとか早くしないとなあ・・・。
焦る気持を抑えながら、私も、たそがれたアズキの背中をみている。