強運の猫

チビが里親さんの家に引き取られて行って3日。やはり、夜は鳴いてばかりだということで、しばらくは大変な様子だ。

そして私は、チビまる子が入っていたハウスの後片付けなどに通っていた。それも終わった今日は、なんの目的もなくなったせいか、古墳へと続く坂道を行くと妙な虚しさがこみあげてきた。

チビは、かくれんぼが好き

チビとまる子は、いつもこの坂道の上で待っていた。二匹がいないこの場所は、以前とはまったく違う風景となった。

この木は、ハウスを置いてあった場所にあった木。チビとまる子がよく登っていた。このあたりには、イノシシがよく出没するのでこの木に登って身を守っていたようだ。この木が守ってくれたような気がしてならない。

こんな、日も射さない、薄暗いところにハウスを置いたわけは、市役所の管理の眼が厳しく、みつかれば撤去されてしまうからだった。それで、いつもびくびくしていた。せめて冬を越すまでは撤去しないでほしいといつも思っていたが、どうやらそのうちに黙認してくれたようだった。

毎日、ハウスは無事だろうかと思いながら坂道を上って行き、帰りぎわ、またチェックをして帰ろうとすると、まる子は竹林でいつも寂しそうに見送っていた。

チビ用とまる子用、二つ並べてコンテナボックスを改造したハウスを置いたら、チビはまる子のほうに一緒に入りたがり、初めは許していたまる子も、そのうちチビの体が大きくなると嫌がるようになり、猫パンチをしてはチビを追い出すようになった。チビは、自分の体が大きくなっていることを自覚していないようで、いつまでもまる子に甘えたがった。

チビまるこの姿がない石の上

人気者だったまる子やチビを囲んで、通りすがりの人たちの笑い声や話声で賑やかだった石のまわりも、今はひっそりと静まり返ったまま。

チビまる子と一緒に、みんな、どこへ行ったの? 

そんなことを思いながら、あづま屋のほうへと歩いて行くと、まる子がまだチビを産む前、捨てられたばかりの頃のことを知る人に出会った。すると、まだ知らなかったことがつぎつぎと出てきた。

まる子は捨てられたばかりのころ、処分されそうになっていたのだということだ。管理事務所の脇に捕獲器にかかったままの姿でまる子が置かれているのをみたその人が、面倒をみるから元の場所に戻してくれと頼み、丘の上まで戻してもらったのだという。ほかにも一人、市役所に談判をしに行ってくれた人がいたのだそうだ。これではあまりにもひどいではないか、動物の虐待ではないかと苦情を言ってくれたのだという。

猫だんご。寒い時期にはよくこうして二匹くっついて温めあっていた。

小さなキャリーバッグが竹林に置かれていたが、それは、その人たちのグループが持ってきたものだった。当座のハウスになっていたようだ。

すんでのところで処分をまぬがれたまる子は、まもなく子供を3匹産み、一匹はすぐに死に、まる子によく似た模様の子もカラスにやられたのだそうだ。

まる子は石の上で、よくヘソ天をした。

「猫がいなくなって、坂を上るにも張り合いがないよ」とその人は言う。「だけど、おれんたちのグループもいつのまにか、俺一人になっちまったからなあ、死んだのやら動けなくなったのやらでな、あんたらが猫の面倒をよくみていてくれたで、安心だったが」

まわりを威圧し、徒党を組んで歩いていたようにみえたグループも、彼一人になったという話を聞いて、時間の流れを感じた。彼らとは何度か対立したものだ。ハウスの近くに大量の餌を置きっぱなしにしていくものだから、その餌を目当てにカラスやイノシシやらハクビシンやらが寄ってくるようになり、置き餌はやめてほしいと何度頼んでもやめてくれず、喧嘩腰になったこともあった。

彼の話を聞いていて、まる子たちはいろんな人たちの助けを借りて、ここまで生きてこられたのだということを知った。雨の日も嵐の日にも通い続けたのは自分たちだけだ、そんな日には誰もこないではないかと思っていた自分は思いあがっていたのだと。

げんに、いつしか、雨の日にも、朝にちゃんときてくれる人や猫たちを見守ってくれる人たちも現れてきて、里親さんになってくれたのだ。

快晴の今日、あづまやから見た景色

ハウスを片付け、坂道をカートに載せて歩いていると、じつは私も餌をやっていたのだという人たちにも出会った。チビとまる子は、いろんな人たちに見守られてきたんだなあ・・・。ぎりぎり処分されずに生き延びたまる子、そのまる子から生まれてさらに生き延びたチビ。今は二匹とも、怯えることのない暮らしができるなんて、本当に運のいい子たちだ。

二匹一緒にこの自然の中で暮らせたならどんなにいいだろうと、何度思ったことだろう。チビまる子に癒されたいと思って登ってくる人も少なくないし。けれども、ときに悪さをする人もいるし、公園の猫には不審な死に方をするものもいる。そのうえ、気候は猫には過酷だ。さらに、夏の花火大会には、このすぐそばで仕掛け花火か打ち上げられる。猫たちはその恐ろしさに慣れることはないだろう。

それにしても、チビまる子を励みに坂をのぼってきていた人々は、しばらくは寂しい思いをするだろうな。自分も含めて。

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