おいらのハートは、ここに置いとくからね。

おいらは、古墳の丘で生き続けた木。
でもすっかり弱っちまって、根元から切られてしまい、なんにもなくなってしまったけどさ、おいらのハートはここで生き続けるのさ。

だって、ここで生まれたチビがおいらに登ってさんざん遊んでくれたし、セミがとまって鳴いてくれたし、まる子はおいらの木陰でへそ天したり、昼寝をしてくれたりしたからさ。



それまではたまに鳥たちがとまってくれるだけだったし、風や星や空を眺めるだけだったおいらの暮らしをとっても楽しいものにしてくれたんだから。

おいらは、いつも思ってたんだ。
おいらが切られるとき、きっと思い出すのは、この青空とかわいい猫たちのことだって。
猫たちはもういなくなったけど、きっと今ごろはあったかい部屋で幸せに暮らしてるだろうからさ、それでいいのさ。

おいらもな、楽しさをいっぱいもらえたから。
だから、おいらのハートはここに、この切られた切り株の上に置いとくよ。

切るにしても、もうちょっとな、せめて誰かが腰をかける程度の長さまで残してくれるだろうと思ったが、こんなに短くされちまうなんてな。

でもなあ、人間のすることなんて、こんなものさ。
せいぜい、おいらも土の中の根っこを大切にして、小さな子供の芽を出したいもんだなあ。

おいらのハートはそれで本望なのさ。
なあ、残ったおいらの仲間たちに伝えとくよ。


誰かがまたここに心の嘆きを晴らしにきたなら、ちゃんと受け取めてやってくれよな。
ざらざらした木肌に爪を立てて泣くときは、じんわりとあっためてな。

そうして、ゴウゴウと幹の中を流れる命の力を伝えてやってくれよ。
触れてくるその手をあったかくしてやってくれ。

どうか、見捨てないでやってくれ。
そうやっておいらたちは、ずっとずっと、みんなの思いをさ、たとえばカラスの嘆きさえも吸い取ってきたのだから。

だから、幹の中には浄化しきれないものもいっぱい溜まってさ、おいらみたいに枯れちまう。
それがおいらたちの道なんだって、誰かに教わったわけではないけれど、きっとそうなんだ。
ここに、ハートはまだいるからさ、いつでも話し相手になってやるからね。

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