蔦の細道というのがあるのは人づてに知ってはいたが、行ってみたことはなく、きのう、初めて足を踏み入れてみた。
けれど、行ってみてびっくり!
えっ、これが道? なにこれ?
大きな石がごろごろと転がるガレ場の急斜面が延々と続いている道をみあげて、初めからもう歩く気が失せる。
それでも、その悪路の先にあるものを期待してとにかく上っていくが、ガレ場は一向にとぎれず、なかなか先がみえてこない。
途中に、在原業平の句が書かれてある看板があり、在原業平もこんな道を上ったのかと感心し、意を決して、はあはあと息を切らしながらとにかく登って行くと、石の道はしだいに土の道になり、ようやく上までたどりつく。
天気もいいし、富士がみえるのではないかと期待したけれど、見えず。一人、中年の男性が石の上でたばこをくゆらしていた。
お昼の休憩をし、今度は岡部に向かう下りの道へ。なんでも、旧東海道の宿場町やら、古いトンネルがあるというので、今度はそれを楽しみにして。けれど、行けども行けども、ずっと薄暗い杉林の細道。東海道を徒歩で歩いていたころなら、山賊でも出てきそうな山道だ。
疲れがピークに達したころに、ようやく、町並みに入った。東海道の宿場町。岡部宿。少し開けた町並みにほっとした。昔、ここを行き来していた人々もきっとここまでたどり着いて安堵し、疲れを癒したんだろうなあ。
通りの家々の玄関には屋号を大きく書いた看板のようなものがあり、昔のにぎわいを失ってひっそりと静まり返っていた。
この長い坂道を上ったそのさらに先に、昔の古いトンネルがあるという。蔦の細道の悪路や上り下りの繰り返しで、体はもうすっかりガタがきていたが、ここまでくると惰性だ。
とにかくひたすら上って行き、平地に出てすこし歩くと、急に、ぽっかりと暗い洞穴のようなものが見えてきた。まるで、テレビドラマに出てくるような場所。冷たくて湿った風が流れてくる。思わず足が止まった。
おお、こわっ! なんでも、心霊スポットだとか・・・。こんなところに長居してはいけないと、明るい出口へと急いだ。
これは明治時代にできたもので、明治トンネルという名前。ほかに大正トンネル、昭和トンネルと、トンネルは時代に沿ってさらに造られている。
なんだかくたびれたのと、トンネルの冷気と霊気にやられてしまい、夕食の買い物をする気にもなれず、早々と家に向かった。すると、家では、ミーナが裏口のガラス戸のあたりで妙な鳴き声をあげている。
みると、隣りのスズ君が向こうに。
恋の季節なんだなあ、きっと。スズ君、ときどきこうして外に出られないミーにゃんに会いにやってくるんだけど、ガラス越しではなあ、厳しいよな。
スズ君、オス猫に対するときにはボスっていう感じのコワモテになるが、ミーにゃんをみるときには優しい眼つきになっている。
ほほえましい。恋心を忘れないのが若さの秘訣だというが、そういうの、すっかり忘れちゃったみたい。恋ほど、ミステリアスなことははないのにね。