通りすがりに思わず眼が合ってしまうということがある。
それでえらいめにあったことがある。
「ガンつけてんの? あんた、ちょっとこっちきな」
と言いがかりをつけられ、人通りのないところに連れ込まれそうになったことがある。
あわてて逃げて人の多い所に行き、難を逃れたのだが・・・。
好奇心旺盛なせいか、つい、気にかかるものに出会うとみつめてしまうのだ。
そんな経験をしているにも関わらず、懲りない。
怖そうだけれど、好奇心に負けて、面白そうな路地に入って行くこともあった。
そして、黒い服を着てたむろしている男たちに睨まれて、すごすごと戻ってきたことも。
その一帯は昼さがりだというのに、異様な重い空気に包まれていた。
昼なのに光が差し込まず、繁華街のすぐそばだというのに、人の声もあまりしなかった。
いったいあれはどういう場所だったのだろう。
いわゆる、いかがわしい界隈だったのだろうか。
なにか立ち入ってはいけない場所だということだけはわかったのだが。
今では考えられないようなアナログの時代に生きてきたものにとっての青春は、フォークソングに彩られ、アングラ劇団の芝居に刺激を受け、新宿駅でギターを奏でる若者をみかけては聞き入り、渋谷の小さな地下劇場に通ったりした。
学生運動が盛んな時代でもあって、社会全体がエネルギーに満ち溢れていた。
品川の大崎という駅近くに部屋を借りていたころ、大学が近かったせいもあって、他の部屋では、学生たちがよく集まって麻雀をしていた。
そのジャラジャラいう音を聞きながら眠ったものだが、ときおり、窓の下で猫の鳴き声がした。
窓をあけるとすぐ横には小さな神社があって、猫はそこをねじろにしていたようである。
眼が合ってしまうと、私はときどき、ちくわを少し小さくして与えていたが、そのうちに姿がみえなくなった。
神社を横にして細い道を挟んだ向かいは、広大な庭を持つお金持ちのお屋敷であった。
なので、退屈なときには窓をあけ、よくその緑豊かな庭を眺めるのを習慣にしていた。
猫はおもにその庭を縄張りとしているようで、木の蔭でよく昼寝をしていた。
眼が合うということは、瞬間のコンタクトである。
けれど、コンタクトは相手を選ばないと、としみじみ思うこのごろである。
猫だって、コンタクトをとってしまったら、あとがある。
かわいいが、責任もともなう。
人も猫も、コンタクトをとるときは気をつけないとね。
眼が合っちゃうたら、ご注意なんです。