ほっとして 寂しさじわり シロの保護 

5時になると、市役所が鳴らす曲が「月の砂漠」
なんで、そんな寂しげな曲を夕方に鳴らすんだろうとずっと思っていた。
なにもなくても夕方はもの寂しくなるというもの。もう少し明るい曲をかけてくれないものだろうか。

でも、明日からは、「月の砂漠」を聴いても、もうかなしくはない。
公園のシロを、ようやく保護ができたのだ。
これからは、おちついて「月の砂漠」を聴くことができる。

純白の猫、シロは、まるで、天から降り立ったもののように美しかった。
けれども白猫の免疫力は弱くて、紫外線の影響を受けやすく、皮膚ガンになりやすいという。

シロの性格は意外と強情で、餌をやるまで後をついてくる。鳴きながら追ってくるので、つい、こちらはしょうがないわねといいながら与えていた。
餌をやる人はきまっているので、あまりやりたくはなかったが、こちらも、坂の上の古墳の丘ではチビとまる子が待っていたので、とにかく早くしたいので、追ってくるときにはやることにしていた。

公園の坂道、滝が流れるあたりの横が、シロのティリトリー。餌をくれそうな人がいると、あとをついてねだっていた。
とくに雨や嵐の日には誰も通らないから、私がチビとまる子のもとへと行こうとして通るのを待ちかねている。そうして、雨を防げる東屋までついてくる。

足元で夢中になって食べているシロの背中をそっと撫でてみると、思っていたよりも固い感触で、背中にはしっかりと筋肉がついていた。
早くチビとまる子のもとへと急ぎたい気持をこらえ、途中でシロにもやるつもりで持ってきたシロの好物の餌をやると、きまってシロはきれいに平らげた。

左耳に異変が起き始め、耳が少しずつとけていくように小さくなっていくのを見て、他の人たちは喧嘩をして化膿したのだと言っていたが、なにか違うと思った私は、病院へ写真を持って行き、相談した。
医者は、抗生物質の薬をくれたが、もしかすると皮膚ガンかもしれないと言った。
それで餌やりさんに医者に連れて行こうと持ち掛けたが、彼女は地域猫のリーダーの指示なのか応じなかった。

耳が欠け始めたころ。

それで、とりあえず薬を餌やりさんにに渡したのだが、なかなか薬をやれなかったようで、病状はどんどん進む一方。皮膚ガンだと自分も確信するようになった。

どうすればいいのだろう。考えあぐねて、以前に電話で話したことがある保護ボランティアの人に相談すると、さいわいにも保護しようという話をしてくれたのだが、それからが大変だった。
何度も捕獲に失敗し、すっかり人間不信になったシロは近づいてくれなくなり、てなづけるための餌をやるにも一苦労。離れたところに置くと、カラスが餌をねらっておりてくる。

そんなこんなで、時間ばかりがたち、諦めかけていたこのごろ、シロはようやくまた、近づいてくれるようになった。

【昨日のしろ】

昨日のシロは、餌を食べたあと、どこかあてどのない風情でうずくまっていた。心の中では助けを求めていたのかもしれない。
そして、けさ、保護ボランティアさんの網で保護できたのだという。
6月に私と保護ボランティアさんとで捕獲しようとしたときには、シロはひどく暴れて網が破れてしまって逃げたのに、けさはそれほど暴れなかったのだそうだ。

自分に力がないことも顧みず、どうしても放っておけなくなり、保護ボランティアさんに相談してからほぼ三カ月。
ようやくシロを保護ボランティアの人を通じて、医療に渡すことができた。

去年までは、チビまる子やシロに餌をやってからの帰り道、市役所が流す「月の砂漠」を聴きながら、丘の上に残してくるチビとまる子に心を残しながら、「月の砂漠「を複雑な思いで聴いていた。
そして、チビとまる子が里親さんのもとで暮らせるようになってからも、しばらくは、二匹の姿がない風景を見るのが辛かった。

そして、今度はシロの番。でも、今度はちょっと違う感慨。弱って行く一方のシロをみなくてすむし、カラスにつつかれて終わるようなことにならずに済んだことに感謝したい。
ご心配してくださった方々、ありがとうございました。

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