夏休みになると、必ず行くところがあった。
母親の実家だ。
自分の家に比べるととても大きな家で、そして、いつも微笑んでいるような、優しい顔のおばあちゃんがいた。
お盆がくると、夕方はみんなで墓参り。
その家の子供たちや親せきの子供たちがみんな揃って、お墓に行く。
墓所では、男の子たちが爆竹を鳴らし、あちこちでネズミ花火に盛んに火をつけて、わざと通る人たちの足許に置く。
追ってくるように足許で回る花火に、悲鳴をあげたり怒鳴ったりする人々をみては、みんなで笑い転げていた。
一緒に行った親戚の男の子たちも混じって騒ぐものだから、墓所はもう、お祭り騒ぎだ。
とりたててなにか楽しみがあるわけでもない田舎の暮しでは、お盆は子供たちにとって、一大イベントだったのだ。
大鍋で茹でて大きなザルに入れて出してくれるトウモロコシには、みんな競うようにしてかぶりついた。
いつも厳しい顔をしている自分の親たちにくらべて、その家の人たちはみな、柔和な顔をしていて、色白でとてもきれいなおばさんも、トラクターに乗って畑を耕すおじさんも、みんな優しかった。
とくにおばあちゃんは、顔だけでなく物言いも動きも穏やかで、こんな人は自分の家にも近所にもどこにもいないよなあと思うような人だった。
だから夏休みになると、とにかくその家に行きたくて、早く早くと待ちかねている。
ある夏のこと、母が新しく買ってくれたピンクのワンピースを着て、いつもの夏のように、一人でバスに乗って向かった。
バスを降りてから、しばらく歩くのだが、途中で鬱蒼とした杉林を通らなくてはならない。
おばあちゃんの待つ家へと心が急いていたが、その杉林を通って行くのが怖かった。
昼間でも暗くて、細い道は湿っていて滑る。
買ってもらったピンクのワンピースを、おばあちゃんに早くほめてもらいたくて走り抜けようとした。
そして、転んだ。
ピンクのワンピースには、泥がついた。
いったい、どうすればいいのだろう。
せいぜい、一つか二つ泊まって帰るという約束だったから、着替えはなかった。
見上げると、鬱蒼と杉が茂った空に、一筋の飛行機雲。
それに導かれるようにして気を取り直し、歩き始めた。
ようやくおばあちゃんの家につくと、おばあちゃんは、「まあまあ、とにかく少し休みなせえ」と、たいして驚きもせず、叱りもせず、やはりにこにこして出迎えてくれた。
そして奥から針箱をもってきて、泥がついた部分、襞が広がったところをちびちびと縫い始めた。
あっというまに、汚れたところを隠して縫い込んでしまったのだ。
「これで、墓まいりにも行けるべ」
おばあちゃんはなにごともなかったようにほほえんで、茹でたトウモロコシを出してくれた。
そして、庭の柿の木の太い枝に作ってあったブランコを指さした。
「ほら、みんながくるまであれで遊んでてな。晩のご飯の支度をしないとな」
そう言って、おばあちゃんは、ワンピースのポケットにお小遣いを入れてくれ、奥に入って行った。
その日は親戚の子たちもまだきていなくて、ひつそりと静かな庭に一人、ブランコに乗っていると、頭上で夏の空が揺れる。
ピンクのワンピースを着た少女の夏休みの記憶は、今でも色が褪せない。
そして、なにもかも受け入れてくれるような、あんな優しい笑顔には、なかなか出会えない。
そして、今日のニャンコはこれ。
なんと、今日は、ミーナを本格的に抱っこできたのです!
保護をしてから、2年と4カ月かかりました。