ねえ、今日は気分がいいのよね。
どうして? なんかいいことあったの?
だってさ、とてもいいお天気だし、気持ちのいい風が吹いてるし。
そうね、思わず、ぴんと茎も葉っぱも伸ばしちゃうよね。
そういえば、あたしさ、ここのところ、ずっと元気がなかったけれど、ようやく元気が出てきたのよ。
なに、なに、なにがあったってわけ?
ううん、なにもないけどさ、あたし、クスノキさんとお話したからかな。
クスノキって? 近くにそんな大きな木はないでしょ。
うん、そうね、でも、ミツバチさんや鳥さんがあたしの花粉を運んでくれるから、そういときはお話ができるのよ。
それで、どんなお話をしたの?
うん、それはね、秘密。
教えてよ、そんなこと言わないで。
じゃあ、ちょっとだけね。
クスノキさんはね、1000年も前から生きてて、いつからか、願い事が叶うって評判がたってね。
いろんな人がいろんなことをクスノキさんに話すから、なんでも知ってるのよ。
それでね。人々の言葉を吸い込んであげてね、時を重ねるごとにそれはふえて、幹の中はたくさんの人たちの思いでいっぱいなんだって。
なかにはね、誰かの不幸を願う呪いの言葉を残していく人もいるんだってさ。
だからね、空が澄んでいる日には、風や雲やお日様の光に自分を委ねてね、ゆらゆらと枝を揺らしながらいろんな人々の思いを空に返してあげるのよ。
そうしないと、さまざまな念じの言葉を抱えたままではね、クスノキさんもやっぱり苦しくなるんだってさ。
だから、あたしもね、そういうのをクスノキさんのようにね、空に返してあげることにしたのよ。
そうしたら、とても気持が軽くなって、根っこからぐんぐんと水やら栄養やらが吸い込まれてくるようになったの。
ああ、それで、気分がとてもよくなったのね。
そうそう、みんな、勝手なことばかり言ってるけれどね、それを吸い取ってくれる相手のことはあまり考えないでしょ。
だいいち、吸い取ってくれる相手なんて、本当にはいやしないんだから。
それで、みんなクスノキさんを頼るわけってことなのね。
そうなの。だから、クスノキさんは、風の強い日には、ごうごうと枝を揺らして、葉っぱの先からや憎しみや呪いや妬みの思いを放出してるんだよね。
そうやって、いいことだけを幹に残して、そうして、誰かが幹に触れてきたら、そうっといいエネルギーだけを注入してあげることにしてるんだって。
あたしたちも、きっと、誰かがあたしたちに指を伸ばしてきたときには、すてきな気分を伝えてあげようね。
そうね、精一杯の新鮮な感触をね。
そうすれば、明日、花を摘まれても、きっとまた、地面に残った種から芽がでてくるから。
だったら、また、あたしたち、明日、摘まれても、またどこかで会えるわね。
うん、会える、きっとね。
きっとね。今度は何色にしよう。
今度も、きっとあたしは青だな。水底のような澄んだ色。
あたしはさ、深紅。
ふふふ、あなたはやっぱり目立ちたがり屋ね。
あたしは、ちょっとシャイな色。
あっ、誰かがハサミを持って近づいてきたわ。
うん、それじゃまたね。
今度は赤い色と青い色ね。
忘れないでよね、バイバイ。