寄り道をして古墳の丘に行くのが遅くなった。
日が落ちる前ほんの少しだけ、まるで待っていたくれたように、富士はこんな姿を見せてくれた。このところの暖かさで雪がだいぶ融けている。
そして日が落ちると、古墳の丘の上から見る情景はニュアンスカラーに。明日は満月。ホワイトムーンというそうな。
季節と天気と時刻が作り上げるファンタスティックな世界を、しばらくぽかんとして眺めていた。
遅くなったわけは、公園に行く前にもう一つの散歩コースに寄ったからだ。
ルートをときおり変えてみると、思わぬ人や猫に出会うからおもしろい。
この猫たち、田圃脇の古い小屋をねじろにしているようだ。まるで古墳の丘のチビとまる子が、私をみると道先案内をしていたように先を歩いて行く。
どこへ行くの? と声をかけても知らんぷり。だけど、逃げている様子でもなく、一定の距離を保ち、ときどき後ろを振り返りながら歩いて行く。後をついて行く猫は、まるで母親の後をついていくように、小さな声で待ってよう、という感じで声をあげて歩いて行く。
そのまましばらく後をついて行くと、やがてそばの崖を上り始め、消えた。崖の上にはきっと、居心地のいい場所があるんだね。
さようなら、また顔をみせてね、と云いながら歩いて行くと、いつか来た道へと出る。そこには、前にも数匹の地域猫がいたはず。そう思って登って行くと、やっぱり、いてくれた。
ちょうど餌をもらったあとらしく、みんなで毛繕い中。それにしても、一番上にいる子はまる子によく似ている。さきほど出会った猫もまる子によく似た模様だったが、こちらは一回り大きい。
このあいだ通りかかったときには、年配の男性が餌をやっているところだった。ほかにも餌をやってくれる人たちがいるらしい。みんなで地域猫を見守っているようだ。道理で、スリスリと寄ってくる。人懐こい。
猫は、人の支えがないと生きていくのは難しい。排除をするのではなく、ふえないように処置をして、共存するということを実践している地域だろう。そんな地域が広がっていくといいなあ。
寄り道をしたせいで、すっかり暗くなってしまった古墳からの帰り道。
坂道の脇に小さな紫の花がぽつぽつと点在。これは、昨年の暮れの寒い夕方、年配のご夫婦がなにか種を撒いていたようだったけれど、それかな? いろんな人がいろんなところに花を咲かせてくれている。
日が長くなったとはいえ、薄暗くなったでこぼこ道を歩いていると、君はどっちへ行くの? という声が黒々とした木立のあいだから聞こえてきた気がした。
私は今の道を信じて歩いていくの、と小さな声でひとりごと。家ではきっと三毛子が窓の外を見つめながら、待っているよなあと思いつつ先を急いだ。