雪猫

*******山形にいたころ 冬*******
この暑い季節。ひんやりとした話もいいかなあ・・・。
雪が降ると、猫たちは窓のそばに行く。

初めての雪を経験したときは、まだ子猫だったから、外に出たときは、空からいったいなにが落ちてくるんだろうという顔をして、しきりに前脚をあげ、雪をキャッチするしぐさをくりかえした。

部屋の中にも、雪の気配は降り積もる。テーブルの上の読みかけの本やボールペン、それからカウンターの上の食器や、ソファーに脱ぎ捨てられたままの洋服など・・・。指先を伸ばすと、どれもしっとりとして、ひんやりする。

積もるときには、一晩に一メートルも降り、この季節は、朝から雪かきが欠かせなくなる。仕事にでかける夫と一緒に車庫の前や玄関の前など、とりあえず車と人が通れるだけの雪かきを終えたあとに、朝食。夫が仕事にでかけたあと、ほかの場所の雪を片付ける。そんな私をみると、猫たちはきまって、外に出せと騒ぎだす。

新雪の上に続く小さな足跡

外に出た二匹は、風景が一変していることに驚き、どこもかしこも境界がなくなった世界を楽しむことにする。畑も田んぼもみな一つになって、自由な世界に変わっている。ブリザードみたいな吹雪でも平気で外に出た。帰ってくると猫たちの体には雪がまつわりつき、白猫に変わっている。ぶるぶるっと体を振るって雪を払い、ファンヒーターの前で温まる。冬は、そんな日々だった。

除雪車が通ったあとの道のわきには、小高い山のように雪が積み重なっている。雪の怖さなど知らぬげに猫たちがどこにでもでかけていくから、不安でしょうがなかった。流れの速い水路の上に、ただかぶさっているだけの雪の上でも歩いてしまうのだ。


猫たちは、外に出たきり、遅くなっても帰ってこないことがあった。この季節、外で夜を越すなんて無理な話だ。凍死してしまう。私は探しに出る。雪道を歩くと、キュッキュッと長靴が雪をこする音がした。懐中電灯を照らし、猫の名前を呼びながら捜し歩く私のことを、近所の人たちは、「あすこの、猫おばさん」と呼ぶようになった。

 

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