叶わなかった願い

三毛子を里親さんのお宅に送り届ける日がいよいよやってきて・・・。

これから起こることをなにも知らない三毛子は、なんか、おかしいぞと感じながらも、まっいいかって顔で、いつものように遊び始める。

いつもの仕草のかわいさに胸がしめつけられる。この場になって、やっぱりやめようかなという思いがつのってくるが、いやいや、きっと三毛子にには遊び友達がいるほうがいいと、思い直し、お気にいりの段ボール箱に入れて運ぶことにする。

中に、餌やおもちゃを入れて三毛子を誘い込んで出口をふさぎ、爪とぎ棒や、ベッドやタオル、好きな餌、タオルなども携えて出発した。

ここまではうまくいった。順調すぎるほどだった。相手のお宅は車で20分ほどのところ。運転する夫と、思っていたよりもおとなしくしているよね、と話しながらふっと後ろを振り向いたら、三毛子は後ろの座席にいるではないか。

眼を疑ったが、いつのまにか箱から抜け出している。そして外をみて焦っている。どこへ連れて行かれるのだろうかと、不安げな顔で動き回る。

これはまずいことになった。三毛子はすばしこいし、まだ人馴れしていないから、捕まえるのはとても難しい。あわてて相手先に電話をすると、御主人が皮手袋を持っているからそれで捕まえようというので、とにかく急いで直行した。

相手先のお宅についてから待ち構えていたご主人が車の中に入って捕まえようとするが、とてもすばしこい三毛子は座席の下に逃げ込んで出てこない。一人では無理だということになり、夫も手伝おうとするが、とても素手では無理。前日に用意しておいた皮手袋を探すが、どうやら慌てて出てきたので、忘れてきたようだ。

仕方がないので、家まで取りに戻ることにした。三毛子は運転席の座席の下に入ったまま、固まっている。そのまま家へ戻り、皮手袋を持ってまた相手先の家へと行き、今度は男二人で捕まえようとするが、なかなかうまくいかず、ようやく座布団を座席の下にいれて押し出された三毛子を洗濯ネットに入れ、さらにケージに入れて家の中へと運んだ。

あらかじめ届けておいたおなじみのケージにいれると、三毛子は恐怖と疲れで過呼吸状態に。なんてひどいことばかり私はしているのだろうという思いがつきあがってきて、声も出なかった。

でも救いだったのは、グレイのマオくんがケージに近づいてくると、三毛子は、くうんくうんと甘えるような声を出し、マオくんもそれに応えるように呼び合ったことだ。隣りのケージに入っている雌猫ともアイコンタクトをしている。白猫のリンくんだけがシャーシャーと威嚇の声。三毛子はただじっとみている。

過呼吸がだいぶおさまってきたのをみて、失礼してきた。どうかうまくなじんでくれますようにと祈るような思いで。家に帰ると、三毛子のいない家の、なんとがらんどうなこと。開けた窓から寂寥感が吹き込んでくる。

しばらく呆然とし、遅めの昼食を食べてからいつものようにチビまる子のもとへ。前日は突然の雷と夕立にあい、しばらく雨宿りをしたが、きょうはからりとした暑さだった。風もふきわたり、猫たちもくつろいでいた。

前日は雷だった。怖いのか、姫は側溝に身を潜めていた。雨があがるのを東屋でまる子と一緒に待っていたら、薄く、大きな虹が立ち上がった。虹に向かって、どうか、三毛子がみんなになじんでくれますようにと、手を合わせていた。


なのに、今日は肝心の自分たちがどたばたとして三毛子に辛い思いをさせてしまった。

でも夜になると、相手先の娘さんから三毛子の写真付きのメールが届いて、少しおちついたようなので、一安心。三毛子のいない夜は静かすぎ、長い夜となった。

人間からひどい目にあわされていたのか、警戒心をゆるめず、人間に甘えることを知らなかった三毛子。せめて抱きしめたり撫でたりしてから送り出してやりたかったが、それも叶わなかった。