キツツキのマイホーム

満開の桜の下の坂道を登っていると、コンコンと木をつつく音が響いてきた。キツツキ? そう思って見回すと、坂道のすぐ脇の大きな木の幹にはりつき、一所懸命につつくキツツキがいた。

コゲラだ。すでに、幹には丸い穴があいている。そして、けっこう深い。穴の丸さ加減は、まるで職人技だ。穴を覗き込んだり、体をそらせて穴の具合を確かめてみたり、念がいっている。

こんなに大きな穴をあけられる木はたまったもんじゃない。そう思いながら眺めていると、あとから坂道を登ってくる人たちも、一緒に眺め、こんなの初めてみたと口々に言う。

丘の上でチビまる子に餌をやっていると、どこからかコンコンと木をつつく音が聞こえてくることはよくあるが、実際に見たのは初めてだ。調べてみると、穴が一つのものは、子育てに使うための巣穴だという。オスとメスの二羽で一つの穴に入る。そのために大きく深い穴が必要になる。

懸命に穴を掘る作業は、マイホームを作ること。ほほえましい。なんだか仕草もおもしろく、しばらく見入ってしまった。

池のまわりは平日にもかかわらず、ボートもたくさん出て人もたくさん。コロナとはいえ、やっぱりみんな桜が好きなんだよね。

だが、その桜はほぼピーク。ふっと、女子校の校舎の桜を思いだした。木製の古い校門のあたりに咲く桜がずいぶんきれいで道を通る人々も見上げて通っていたものだ。

散る桜は、夢が散ってしまうのを連想する。地に落ちて踏みしだかれて、そして土に還る。あのころ、自分がみていた夢はなんだったろう。女子校の古い体質が自分に合わなかったうえに、将来の方向を決めかねて迷いのなかにいたように思う。

チビとまる子には、なんの迷いもないようにみえる。食べて遊んで、そしてまったりと桜のそばで丸くなる。いいなあ、とみている人をなごませる。そこにいるだけで、人の役にたっているというわけだ。

もしも、ここにチビまる子がいなかったなら、きっとただの古墳が並ぶ丘になることだろう。猫なんか目障りなだけだと思う人もいるだろうが、たいていの人は眼を細めたり、立ち止まって声をかけたりして通り過ぎていく。

人の多さに疲れたのか、まる子がいつもより元気がないので、しばらく様子をみてから下に降りると、桜のライトアップがされていた。

行きに坂道をのぼるとき、電気の工事会社のトラックとすれちがった。きっとあれは、このライトアップのためだったのだろう。市役所もなかなかやるじゃないの。

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