*******山形にいたころ*******
春、あれほど厚く空を封じ込めていた雪の雲が去り、光あふれる季節。
分厚い布団がずりおちるようにして、屋根から雪が落ちてくる。やがて雪は日の当たらない片隅に残るだけとなり、田にも、トラクターが入るようになる。
秋の終わりに飛来してきた白鳥たちは、風の強い日、それぞれ、グループごとに編隊を組んで飛び立つ。たがいに声をかけあい、リーダーを頭にした美しい編隊は、高く連なる山脈へと向かい、風をとらえる。上昇気流に乗ろうとしてうまくいかないと、風にあおられ、あおられして、隊列はくずれる。けれど、また立て直し、すうっと上にあがると、その勢いで山脈を越えて行く。遠目にも、はらはらするようなその光景をみるたびに勇気づけられた。
猫の10年 その2
プリンとそっくりな絵
外に出ないときと眠っていないときには、猫はきまって窓のそばにいる。それで窓ガラスには、猫の鼻先のあとが無数についていた。初めはなんの跡かわからず、わかったときには、大笑い。
猫はこたつで丸くなる、のようだが、この猫たちは雪が大好きで、雪が降ると外に出ては、歩き回った。
雪のない季節、プリンはほとんど、裏の林にいた。昼寝もし、呼んでも帰ってきたがらなかった。そんな猫を、自然がほとんどないところへ連れて行くなんてと気がとがめた。ここで飼ってくれるような人はと、考えてみたが、猫好きな知人はみなすでに猫を数匹飼っていて、むずかしかった。
とにかく、窓の外が好き。
猫は、少しでも高いところが好き。たとえ、段ボール一枚であってもだ。
初めはなにもなく、ただ石ころが転がっているだけの庭に植えた木々も、10年でこんなに大きくなった。手をかけてきた庭は、私の作品のようなものだった。
外から帰ってくると、二匹はこうして待っていた。
山のあなたの空遠く、幸いすむと人のいう。すり鉢状に山々に囲まれている町は私にとってはどこか息苦しかった。視線も道も山につきあたる。山脈を越えていく白鳥のように、山々を眺めては、あの山を越えて行きたいと思ったものだ。
山の向こうに幸いがすむとはかぎらない。むしろ、夫の定年を数年前にしての、無謀な決断かもしれなかった。猫にとってもいいことではない。それでも、山の向こう、その先に開けているものを信じたかった。