丘の上では、なにかとまる子ばかりが話題になるが、チビだって、よくみると、いいところがある。すぐにびびるし、いつまでも母まる子にくっついているところはまあ、マザコンといえなくもないが。
とにかく動きが速い。走るのも木に登るのも、身を隠すのも、一瞬である。瞬きをしているまに消えていることもある。忍者、なのである。体毛もまわりの自然になじむ色。保護色である。だから、いっそう、姿を隠しやすい。それで、生まれた三匹のうち一匹だけ生き残れたのだろう。
最近は、よく転がる。甘えるしぐさもみせるようになった。
そして、なにかの獲物をみつけるのが早い。五感のセンサーが鋭い。ビビリのわりには、蛇はいい遊び相手。逃げる蛇を、紐のように引っ張っては遊んでいる。
でも、まる子にくらべると、まだまだ要領が悪く、餌を食べるのものんびりとしているし、雨にもよく濡れている。雨風のしのぎかたは、まだ修業がたりないみたいだ。
けれども、このごろは少し風格も出てきたみたい。模様のせいもあって、トラの風貌。
そういえば、最近は、チビを探すときの悲壮な声を、まる子は出さなくなった。そろそろ安心しているのだろうか。
先日、まる子がさらわれそうになったときのことを、何人かがみていたようで、おもしろおかしく、まる子誘拐犯の話が出ている。どうも、エサやり注意のビラを剥がしたグループの一人らしい。50歳代の女性と、とりまきの男たちのグループだ。女性はとりまきの男たちに指示をくだすだけで、自分の手は汚さないのだそうだ。ありふれたドラマみたいだ。私が貼った貼り紙を剥がせと命じたのは彼女だという。
男たちを従えているその女性もすごいが、おとなしく従っている男たちのほうも、すごいといえばすごい。その女性、たしかに、若い時はいい女だったんじゃないかなという雰囲気を持っている。男たちを従えて歩くその吸引力がどこからくるのか、今度、女王様に会ったら、教えてもらおうか。でも、「あんたと私では、もとがちがうのよ」と言われそうだから、やっぱりやめとこ。私の最も苦手とするタイプだし。
帰り道、つかのま、月がみえた。ずっと雨ばかりでひさしぶりのお月様。少し前にも、少しあとにも、みえなかった、一瞬の月。