アンデスに行ったことはない。が、アンデスに惹かれる。それで、アンデス展に行ってみた。
髪の毛で編んだネックレス
このピンクの貝殻は、とても貴重なもので、金よりも価値があったという。うーん、この色はたしかにいい色だ。かわいいし。
打ち出し細工の胸飾り
純度の高い金の薄板に、細かい細工を施している。同じ模様の65個のパーツを針金でつなぎあわせている。
貝で作ったトランペット
ほら貝にもなる。
埋葬のときに一緒に入れられたという土偶
一人ぼっちにするのはさびしいからか。そのせいか、なんだかとても静かな顔をしている。
この土偶をみて思いだしたのは、新橋の、情報誌を出版する会社に通っていたころのことだ。情報誌の校閲という仕事だったが、とても厳しい職場で、大きな成績表が壁に貼ってあり、各自の到達度が項目別に示され、丸印がついていく。自分の名前の欄に丸の数を埋めることができれば、ワンランク上に進むことができる。
成績がふるわないときは、ランチタイムにひとりで、新橋界隈を歩き回って気分転換を図っていたが、ある日、コーヒーを飲みに立ち寄ったビルのホールに、こんなような像が飾ってあった。ケースの中の少し口をあけたのんびりとした小さな土偶を眺めていると、なんだかほっとして、行ったこともないアンデスの空を想像したものだった。
リャマや猫の形の容器
展示物には、猫と蛇が描かれているものが多い。この時代のアンデスにも、猫はいたんだなあ・・・。やっぱり猫は神秘の存在だったのだ。
この冠も猫の顔
この文化では、猫はとても大切なものとして扱われていたようだ。
きらびやかな金細工の器をみたあとで、こんな像をみると、ちょっと笑える。
顔に入れ墨をした成人男性の像
お腹のところに穴があいているので、オカリナとしても使えるという。
そして、独特な模様と色彩の容器がたくさんあった。
お魚の皿はかわいくて、すぐにでも使いたくなる。そして、現代でも違和感のないポシェットも。
驚くのは、その色彩や模様の華やかさ。繊細で美しい。
新橋のその会社に通っていたころ、ランチタイムになると、小さなケースの中の土偶をみに行き、食後のコーヒーを飲んだ。結局、私は校閲室の壁の成績表についに丸を埋めることができないまま、ほかの部署に回されたのだった。楽しみながら仕事しよう、というのがモットーの会社で、男女の区別もさほどなく、そのころでは珍しかった女性の重役もいた。上司も女性で、ある日、銀座の上等なウナギをご馳走してくれた。そのころ私は小説も書いていて、そのことを話すと、彼女は言った。「あなた、あとがないよ、今が勝負よ」
勝負をかけようと思った矢先、夫の仕事の都合で山形に行くことになり、さんざん迷った末に一緒に行くことを決断した。それからは、波乱の日々。でも今は、勝った負けたと考えることもばからしくなり、ただ、静かな日々が好きになっている。