このところ、なにかとお世話になっている歯医者に行った帰りだった。いつもの道を走り、家の近くの道に入った時、少し先に、猫がコロンと、まるで昼寝でもしているように寝そべっていた。twinsの片方だ。
この道は抜け道になっていて、車の通りが激しいというほどではないが、けっこうスピードを出す車も多く、注意が必要だ。「おいおい、こんなとこで昼寝なんて、いくらなんでも危ないよ」と車を停めて近づいた時、異変に気づいた。
寝ているのではない。頭から血が出ていた。とにかく、急いで病院に連れて行かなくてはと、大声で、近所の人に声をかけると、彼女はすぐにかけつけてきてくれた。
生きているようにみえたのに、触ってみると、もう硬直していた。虫もたかりはじめていた。頭上には、カラスもいた。車にはねられて、頭を打ったのだろう。ほかにはどこにも傷がなく、苦しんだ様子がなかったのがわずかな救いだ。段ボール箱を家から持ってきて、亡骸を入れ、近くの公園から花を頂戴して一緒に入れてやり、近所の方が持ってきてくれた線香を焚いた。
気になるのは、もう片方の子だ。いつも一緒にいた相棒をなくして、どうしているのだろうか。姿がみえない。飼い猫なのかどうかわからなかったが、かけつけてきてくれた方によると、餌をやっている人がいて、少し先の家を棲み処にしていたノラだったという。塀のあいだから覗いていた、好奇心に満ちた、小さな顔が浮かんでくる。
気落ちしていたけれど、台風が近づいている。チビまる子のことも心配なので、いつものようにでかけた。
大型の台風がここらを直撃の模様だ。きっと明日はチビまる子のところへ行くのは無理だろう。そう思って、きょうは多めに餌をやった。まる子しか出てこなかったので、まる子だけでもこの際保護しようかと思ったとき、もうあたりが暗くなってきたころにチビがひょいと現れた。とにかく餌をやり、試案。二匹一緒なら、なんとか乗り越えてくれるのではないだろうかと祈るような気持で坂を降りた。
池のまわりの猫たちに餌をやっている人に出会うと、あの剽軽猫のなっちゃんが先日息を引き取ったのだという。人懐こくて、みんなに好かれていた猫だった。彼女が言うには、具合が悪そうにしていたので、病院に連れていき、治療をしてもらった翌日の往生だったという。それがやっぱりせめてもの救いだと。
包容力がある猫だった。おっとりしていて、新入りがくれば自分の縄張りに入れてやり、喧嘩をしかけられても知らんぷり。近づいてくる人には、よく体を触らせていた。もうあのユーモラスな姿をみることができないなんて、なんと寂しいことだろう。こんなにも心優しい猫を捨てた人は、いったいどんな人なのだろうか。ほかに方法があったはずだ。
そこにいるだけで、まわりを明るくさせる猫たち。虹の橋を渡った彼岸の世界は、きっときみたちに優しいと思うよ。