ケン、だいぶおとなになって体力がついたのか、ケン座りをして座り込むことも少なくなったようだ。
公園に行く時間が前後するせいで、ケンに会うのはまれだ。ケンの飼い主さんは、公園から片道4キロメートルの道を自転車に乗って、ケンのペースにあわせながらやってくる。ときおり、自転車を押しながら歩いていることもある。
公園に行く途中、車からその姿がみえると、つい声をかけたくなるが、いやいや、ペースを乱すから、かえって迷惑だろうと思い、眺めるだけにする。
ケンとその飼い主さんであるケンパパは、とてもいいコンビだ。きょう、午前中にドラッグストアに行ったら、ちょうどケンパパは、レジのそばで袋詰めをしているところで、声をかけると、いつもの、ちょっとはにかんだような顔で「やあ、いつもどうも」と返してくれる。
「ケンちゃん、今日はもう公園には行ったんですか?」と訊くと、「今日はね、これからごはんを作らなくちゃならないんで、どうしようかなあ」と、ケンパパ。
またね、よろしくね、とケンパパとは別れたが、いろんな食材を袋に詰めていたのをみると、料理はなかなかの腕前かもしれない。いつだったか、「ウチで働いてないのは、おれとケンだけなんだ。だから、ごはんを作る」と言っていたケンパパ。
いえいえ、ケンパパはなかなかの人だとお見受けするのは、とても心根が優しそうで、なんだか不思議な魅力を漂わせているからだ。それは、ケンも同じで、ケンとケンパパは、その相乗効果で、いい空気をかもしだすコンビなのだ。話していて、こんな人ってあまりいないよなあって感じるのだ。ケンは、近所の子供たちにも人気があるそうだ。
別れるときは、ケンはいつもこんなふう。ちょっと深遠な眼つきになる。
初めて会った時にはまだ子犬っぽい感じが抜けていなくて、しょっちゅうケン座りをしては笑いを取っていたが、このごろは体力がついたのか、あまり座っているのをみかけなくなった。それでも好奇心の強いケンは、よく道草をし、あちこち寄り道をするので、ケンパパは、しまいにはロープを肩にかけて、ひっぱるようにして歩いている。
公園ではさまざまな犬が飼い主と散歩しているけれど、やっぱり眼をひきつけられるのは、飼い主さんとのあうんの呼吸みたいなものがうまくいっているコンビである。おもしろいコンビには、そう出会えるものではない。
このごろ、チビとまる子は、干し草の上にいることが多い。まあるく形を整え、うまく体をなじませる。猫は居心地のよいところをみつける天才だ。
そしてきのうは、コールドムーン。12月の満月の日だった。
山の端から少しずつ顔を出し、ひときわ輝く月。帰りの坂道は懐中電灯がいらないほど明るくて、木々の枝が道に映っていた。