猫は思いがけないところにいる。
横浜から山形に移住したころのことだ。
秋の日の暮れ方、両側に田んぼが広がる道の端に動くものがあった。とても小さくて、生まれてからまだそれほどたっていない猫のようだ。車のライトに浮かび上がるのは、縞模様の小さな猫。よくみると、その後ろをさらに小さな黒猫が必死でついていく。縦列行進をするように二匹は縦に並んで歩いていた。ライトがあたってもまだ、黙々と、目的地に向かうように進んで行く。
なんだ、これは? 子猫の縦列行進か?
確かめようととして車を止め、ドアをあけてみた。すると、先に黒猫が、そしてあとから縞の猫が車の中によじのぼるようにして乗ってきた。
どうしたものかと道の端で立ちつくしている私の頭上には、カラスがいた。じっとこっちをみおろしている。猫を狙っていたのだろう。道の奥の草むらには段ボール箱が置いてあった。中には発泡スチロールの皿。舐めきってすっかり乾いている。
雨も降り始め、カラスはあいかわらず立ち去らなかった。しかたなく私は猫を乗せたまま家へ帰った。その日から、猫たちは、日ごと、思いがけないシーンをみせてくれるようになった。
階段をやっと登れるようになった!
ときには屋根裏からこんにちは!
ゴミ箱の中からも。
病院に連れて行くと、猫はまだ2か月にも満たないという。縞模様の猫はオスで、黒いほうはメスだった。それからというもの、私は、あてもないまま車でふらふらと走り回るのをやめた。よそ者である私たち夫婦をみるまわりの眼は冷ややかで、とまどうことも多かったが、猫たちは、そんな私たち夫婦をしょっちゅう笑わせてくれた。