1970年に作られたイタリア映画、「ひまわり」。主演女優のソフィアローレンがジョバンナを演じた。兵士として赴いた夫を探しにロシアに行ったジョバンナが、地平線のかなたまで広がるひまわり畑を歩くシーンがある。多くの兵士たちがひまわりの下に眠っている場所だ。
そこを案内した役人に、ジョバンナは、「夫はここにはいない」ときっぱり言う。そして、どこまでも続くひまわりの中を歩いて行く。眼に灼きつくシーンだ。
その映画を、ひまわり畑を見に行って思いだした。ひまわりは夏の定番だが、あえてこの時期に咲かせる人がいる。600坪の畑に、毎年、もう何年も続けて咲かせているのだという。8月の末に種をまいたひまわりは、季節の関係であまり成長せず、こぶりなひまわりが畑一杯に咲いていた。
ひまわりを咲かせている人がちょうどいらしたので話をきいてみた。手入れができなくなった畑を譲り受けたのも、親切心から。放っておくと荒れ果てるからだ。さて、なにを植えようかと考えて、朝、すぐそばのバイパス沿いの道が、信号待ちの車で混雑するのをみて、花が少なくなる時期に、少しでも癒されればと考えたからだという。
毎年、ほかのひまわりが散るころに撒く種の代金は7万円にもなると苦笑した。その人の顔は陽に灼け、健康そうで、ひまわりのように明るい。この人はきっといい人生を歩んでいるんだろうなあと感じるオーラがあった。
ひまわり畑をあとにして、ふっと顔をあげれば、小高い丘の上にホテルがあり、そこでお茶を飲むことにした。ここのところ、夫と私は病院にやたら縁があり、のんびりとそんなところでお茶を楽しむゆとりもなくしていた。
急な坂道を登って行くとホテルがあり、いきなり視界が開ける。下には、海に向かって突き出した別荘のような建物があった。
ホテルの庭には、手入れの行き届いた松が並び、その松越しに海が広がっている。あいにく富士山は見えなかったが、平日のせいかロビーは空いていて、のんびりとお茶を楽しむことができた。
やっぱりこういう時間は必要だなあと思いながら、家に帰ると、例のtwinsの猫が庭にいて、今日はどういうわけか、シングル。
トゲトゲのマットもなんのその、しっかりトイレをすませてから、しばらくちんまりと座り、あたりを眺めてから去って行った。また、おいで。