*******山形にいたころ*******
お気に入りの椅子
我が家にきた君たちは、とても活発で好奇心が旺盛な猫だった。それでもやっぱり一匹で行動するのはまだ不安だった君たちは、いつも一緒にいた。遊ぶときはもちろん、寝る時も食べるときもいつもくっついていた。
私はたちまち君たちに夢中になってしまった。なにしろ四六時中一緒にいても飽きないのだ。ただ眺めているだけでおもしろい。こんなおもしろい生き物にそれまで出会ったことがなかった。
ジャンプ、半端ない。
ある日、突然に人生は変わるものだ。それが自分で選択した結果ではあっても、見えないなにかに手招きされて、そっちへ行ってはいけないと思いながら、つい行ってしまうということがある。まさに君たちとの出会いがそうだった気がする。なにをするにも、君たちのことをまず考えてから行動しなくてはならなくなったし、旅行もできない不自由さが生まれたが、それ以上に私は、自分を頼ってくれて、愛されているという感覚をひさしぶりに味わっていた。
ひと月もたたないうちに、ソファーは爪とぎでボサボサになった。
人づきあいがとても下手だった私が、気候も土地柄もまわりとのつきあいかたもまったくちがうところへ行ったのだ。夫の転職に伴っての、ずいぶん迷った末の決断だった。私のほうは仕事をやめなくてはならなかった。引っ越してひと月もしないうちにもう、後悔の毎日だった。だが、なにもかも整理して引っ越したのだから、戻る場所なんてどこにもなかった。
君たちはきっと、私に、ここだってそんなに悪いところではないんだよ、と教えてくれるためにやってきたのかもしれないね。