*******山形にいたころ*******
猫たちは、山形での暮しを変えてくれた。
引っ越してまもなく、町内の長にゴミも出せないんだぞと言われ、私が市役所に苦情を申し立てたことで、さらに軋轢が深まった。ことあるごとに、私たちはよそ者という立場を意識しなくてはならなかった。くたびれて、なにもかも行き詰った気持になっていたときに、猫たちはやってきた。
不細工なほどおもしろい 屋根裏がとてもお気に入り
二匹はよくシンクロする。
猫たちは、朝起きるとすぐに外へでかけていく。越えることができなかった水路もじきに越えられるようになり、田んぼ道をはるかに進んで未知の世界を堪能した。私も日がな一日、ぼうっと彼らを眺めていた。
探検が好き。
小熊みたいな黒猫。裏の林に入り浸り、モグラたたきに熱中する。
猫には隣り近所との境界などわかるはずもなく、ふらりとどこにでもでかける。気に入ったところがあれば、そろりそろりと入っていく。まして子猫とくれば、どこだろうとおかまいなしだ。私はなにか苦情を言われるたびに、平謝りだ。
けれど、それはそれで、一つのコミュニケーションになっていった。まず相手の顔をみること、挨拶すること、なにか一言でも言葉をかわすこと。それがあるだけでも以前に比べれば、すごい進歩ではないのか。そう考えると、なんだかおもしろくなってくる。
不吉な感じのする黒猫のプリンが、長の家の犬、ラブラドールのブックと遊ぶようになったのをきっかけに、私もできるだけ、とにかく、なにか話すようにした。するとちょっとやくざな感じのおじさんが庭を覗いていくようになって、若い時の武勇伝を話していくようになった。なんでも、手に釘を打ち込まれたことがあるという。話しながら、そのときの傷をみせてくれた。ちょっとミステリアスなおじさんが近所にいるだけで、毎日は素敵になる。
猫は私になにか大切なものを運んできてくれたのかもしれなかった。