大きなあくびだニャ
伸びきってるニャ
毎日のように、丘の上や坂道で出会う人がいる。すれちがいざま、少し立ち止まり、挨拶程度の短い言葉をかわし、別れていく。リンちゃんという小さな犬とその飼い主さんとの出会いもそうだった。
けれど、そんな習慣がある日突然に壊れてしまうことがある。いつも会う人の顔をみないとちょっと気になり、それが何日も続くと、どうしたのかなあと心にかかる。
リンちゃん、坂道を、走る、走る!
リンちゃんとの出会いもそうだった。小さいのによく走るので、会う人がみんな驚いて声をかける人も多かった。そうして丘の上の展望台までのぼると、ごほうびをもらうのが習慣。いつも、お手、という声に前脚を出して、おやつをもらっていた。
飼い主さんがおやつを出すのが待ち遠しくて、早く早くとせがんでいることも。
その愛らしさと坂道を走るパワフルな意外性で、みんなの人気者だったのに、ある日をさかいに姿をみなくなった。もう、一年以上も前のことだ。
展望台まで行っても、お手!という声も聞こえず、ほほえましい情景も消えてしまい、リンちゃんはどうしたのかなあ、具合が悪いのかなあと言う人もいて、私もおんなじ思いだった。
ある日突然にその姿を見なくなることは、べつに特別なことではなく、気にしないようにしているけれど、リンちゃんのことはよく思い起こされるのだった。
吾輩は、夏バテです。ほっといておくんなせえ。
なんとはなしに、あれからどのくらいたったのだろうかとふっと思っていたとき、飼い主さんらしき人と出会い、声をかけてみると、やはり飼い主さんだった。話をすると、リンちゃんは突然に亡くなってしまったのだという。
ああ、やっぱりと思いながらも、飼い主さんの元気そうな笑顔に出会えたことで一安心。突然に見なくなってから、また会えることはめったにないことで、なんだかうれしくなった。リンちゃンと一緒に走る姿をもう見られないのは残念だけれど。
アンとモカで、アンモカコンビ。左がアン、右がモカ。彼女たちとも長いつきあい。
ひさしく会えなかった人と会えるのは本当にうれしいことだ。深いつきあいではないけれど、丘の上で出会う人たちは、丘の上の情景や季節を共有する一種の仲間のように思えてくる。不思議な感覚だ。