*******山形にいたころ*******
山形は雪深い。一晩に1メートルも降ることがある。だから、車庫は不可欠だ。まだ冬の怖さも知らない私たちに、建築業者がそう言ったので、私たちは家と一緒に車庫も作った。
猫を拾って少したったころ、その車庫の陰から、見知らぬ少女が、そっと顔を覗かせることがあった。声をかけると、あわてて走り去る。そんなことを何度かくりかえした。あの少女はいったいなにをしにきているのだろう。やがて私は少女の姿を心待ちにするようになった。
ある日曜日の晴れた日の午後、マロンと名づけた縞模様の猫が車庫の近くで遊んでいるのを眺めていたとき、ふいに車庫の陰から出てきた少女は、あたりに人がいないのをみてマロンに近寄って、そうっと撫でた。
その様子を家の中からみていた私は、声をかけようと思ったが、ふみととどまった。私が出て行けば、少女はきっとまた逃げて行くだろう。マロンが外で遊んでいるのをみたプリンも猫ドアーから出て行き、マロンのそばに行った。すると少女はプリンも撫でたあと、ふいに走りだした。
ぎゅうぎゅうに詰まった二匹
初め私は、猫好きで、恥ずかしがりやの少女が、猫たちをみにきているのだとばかり思っていた。だが、そのうちに、なにか違うような気がしてきた。
猫たちはあの少女の家で生まれたのではないだろうか。そして家族の誰かに捨てられたのだ。それで少女は猫たちのことを探しているうちに、我が家にたどりついたのかもしれない。私はときどき猫たちを自転車のかごに入れて走り回っていたから、少女はどこかでそれをみたのかもしれなかった。
そういう結論にたどりついたとき、私はその少女のことがいとおしくてたまらなくなった。車庫の陰から注がれる、そのまなざしをもう一度見たかった。けれど、少女は、それから顔をみせることはなかった。そして私はその少女のことを、今でも思い出すことがある。